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片頭痛のつらさ、我慢していませんか?
~「かるた」で可視化する見えない“痛み”~

日本人は片頭痛の支障度を他国に比べて低めに回答している(The International Headache Congress 2021, P0441.より抜粋)

日本人は片頭痛の支障度を他国に比べて低めに回答している(The International Headache Congress 2021, P0441.より抜粋)

 ◇日本人の我慢強さ

 片頭痛のつらさを周囲になかなか理解してもらいづらい状況の背景には、日本人の我慢強さもありそうだ。同社が国内の片頭痛患者を対象に2020年7~9月にインターネットで実施した大規模な疫学調査では、患者自身が症状を過小評価したり、無理して会社に行ったりしている実態が浮かび上がっている。

 調査対象者は、過去1年間に頭痛または片頭痛があり、国際頭痛分類の片頭痛の診断基準に該当するか、医師による片頭痛の診断を受けたことがあると自己申告した人の合計1万7071人。このうち国際頭痛分類の診断基準を満たした1万4033人の背景と特徴を米国、スペイン、ドイツで行われた調査の回答者と比較すると、年齢や性別、就労者の割合や1カ月あたりの頭痛日数の平均値に大きな差は見られないにもかかわらず、片頭痛の診断を受けている人の日常生活の支障度の回答を見ると、米国では68%、スペインでは66%、ドイツでは75%が軽度以上の支障を報告していたのに対して、日本は46%にとどまった。

 日本頭痛学会代表理事で獨協医科大学副学長の平田幸一医師は「米国、スペイン、ドイツと比べて日本人は支障を軽く回答しており、我慢する文化の民族であるということだ」と指摘する。

片頭痛のつらさは痛みだけではない

片頭痛のつらさは痛みだけではない

 ◇労働生産性が低下

 しかし、実際には片頭痛が労働生産性や日常活動に及ぼす影響は少なくない。国内の回答者を1カ月当たりの頭痛日数に分けて見ていくと、1カ月当たりの頭痛日数が多いほど既婚者や就業者の割合が低かった。頭痛日数が「0~3日」では50.8%が既婚、73.6%が働いているが、「15日以上」になると既婚者は45.5%、就労者は65.9%にとどまる。

 片頭痛の労働生産性への影響を見ると、会社には行くが労働生産性が低下する(プレゼンティズム)割合は、1カ月の頭痛日数が「0~3日」の人は約3割で、「15日以上」の人では5割にも達する。仕事以外の日常活動への支障度も頭痛頻度が高い人ほど高かった。一方、健康上の問題で仕事を休む(アブセンティズム)のは、頭痛が1カ月に15日以上ある人でも全労働時間の6.2%にすぎない。

 さらに、頭痛頻度が高い人ほど治療を求めることをちゅうちょしている実態も明らかに。治療をためらう理由として、「自分の頭痛を深刻に感じていなかった」「痛みの程度が低いと思った」「どの診療科、医療機関を受診すればいいか分からなかった」が上位を占めた。

 ◇治療薬の進歩

 片頭痛は、拍動性の痛みに加え、光や音に敏感になったり、吐き気嘔吐(おうと)を伴ったりする。近年、病態解明が進み、治療薬の開発が活発化。発症のメカニズムとして有力視されているのが「三叉(さんさ)神経血管説」だ。光や音、気圧の変化などの刺激があると、脳内に「カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)」という物質が過剰に放出されて血管が拡張し、炎症が発生。痛みのシグナルが三叉(さんさ)神経を通って大脳皮質に伝えられる。

 21年にはCGRPを標的とする片頭痛予防薬が日本でも相次いで登場し、片頭痛治療が大きく変わると期待されている。ヘンズツウかるたを監修した富士通クリニックの五十嵐久佳医師(頭痛外来担当)は「問題は患者自身がなかなかそこにアクセスできないこと。片頭痛による経済的損失は年間3000億円と試算されている。社会全体で片頭痛の正しい理解が進むことが、当事者を片頭痛の我慢から解放することにつながる」と話している。(了)

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