治療・予防

慢性閉塞性肺疾患に新治療薬
~初の生物学的製剤~

サノフィの石田稚人部長

サノフィの石田稚人部長

 調査を主導した同社の免疫領域メディカル統括部呼吸器領域部の石田稚人部長は「あきらめの気持ちが積極的な改善行動を妨げている可能性があり、適切な疾患教育と患者支援の必要性を示唆している」と分析する。

 ◇治療は症状悪化防止を重視

 COPDは、診断後に風邪など呼吸器の感染症をきっかけに症状が悪化する「増悪」も起きやすい。調査でも増悪経験がある患者は軽症で61.3%、中等症以上では74.1%と多く、症状は「息切れが強くなる」「せきやたんが増える」が目立った。

 定期治療は2種類の長時間作用性気管支拡張薬と炎症を抑えるステロイド吸入薬を単剤や配合剤で定期吸入することが基本で、増悪の場合は短時間作用性気管支拡張薬の追加や必要に応じて抗生剤やステロイド製剤の併用などで対応している。増悪を何度も繰り返し、薬を服用しても症状が悪化するケースもある。海外のデータでは、入院が必要な重度増悪の発生間隔は、初回から2回目までの期間の中央値は5.4年だが、9回目から10回目は4カ月未満と短い。そのため、治療では増悪を防ぐことが重要視されている。

 ただ、調査では「一時的に症状が悪くなり、いつもの薬で症状が抑えられなかったことを主治医に伝えたか」との質問に「伝えたが治療は変わらなかった」との回答が軽症で39.1%、中等症以上で46.5%と最も多く、「伝えた。それにより治療内容の変更があった」を上回った。室教授は「すでに最大限の治療を行っていて工夫のしようがなかったのかもしれない」と推察する。

 ◇臨床試験で症状悪化回数減

 COPD患者のうち、15.0~29.6%にぜんそくの特徴があり、約7%がアレルギー性鼻炎とされている。寄生虫に感染症をうつされたり、アレルゲンなどの刺激を受けたりした際に、体がそれらを排除しようとするために起こる「2型炎症」はこうしたアレルギーが関与する病気を引き起こす可能性がある。

 デュピルマブは2型炎症で重要な役割を果たすサイトカイン(タンパク質)の作用を阻害する仕組みを持ち、すでにアトピー性皮膚炎気管支ぜんそくなどの治療に使われている。臨床試験では、2型炎症を起こしているCOPD患者に投与した。その結果、増悪の年間発現率はプラセボ剤(偽薬)の1.113回に対し、デュピルマブは0.788回と少なかった。室教授は「これまでの3剤による治療に加えて、デュピルマブを投与することによってさらに下げられた」と話す。

 肺機能の指標の一つである、最大の呼出努力(息をいっぱいに吸い込んだ後、できるだけ勢いよく吐く)で最初の1秒間に吐き出す空気量(1秒量)も、治療開始前に比べて12週時でプラセボ75ミリリットル、デュピルマブ155ミリリットルの増加、1年後でそれぞれ67ミリリットル、143ミリリットルの増加と、いずれもデュピルマブの改善度が上回った。患者の健康関連の生活の質(QOL)を評価する「SGRQ」もプラセボよりも改善が見られた。室教授は「デュピルマブの投与がCOPD患者の利益になることが示された結果だと考えていい」と話していた。(江川剛正)

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