Dr.純子のメディカルサロン

「今楽しい」を続ければ認知症患者は変わる
吉田勝明・横浜相原病院院長

 海原 先生は病院で音楽療法など大変ユニークな治療をなさっていらっしゃいます。音楽は認知症にどのような効果があるのでしょうか。

 吉田 音楽には未知の効果がたくさんあると思っています。認知症患者に対して回想法という治療方法があります。以前の記憶を呼び戻すようなことをしてあげるのですが、それには音楽がぴったり合います。人生のさまざまなエピソードにはその時々の音楽が刻み込まれていると思われます。音楽によってそれらの記憶を呼び戻す、そんなことをやってあげられるのです。

旅行した時のことを思い出すためにご当地ソングを聞かせる。それだけでも役に立ちます。またカラオケで歌うと嚥下(えんげ)の訓練につながり、ひいては肺炎予防にも役に立つのです。

 海原 認知症の方が変わっていくには、残されている機能を引き出すことが大事だと先生は語っていますが、実際に家族が認知症の場合、どのように機能を引き出せばいいでしょうか。ぜひヒントを教えてください。

 吉田 ともに歩んだこと、経験したことをゆっくり繰り返し話し合いましょう。楽しかったことだけではなく、苦労したことでも結構だし、旅行先での思い出など、写真や音楽を用いて機能を引き出してあげてください。

 「物忘れが激しく昨日のこともすぐに忘れてしまう。だから何をしてあげても意味がない」と思う方もおられます。それは違います。

 患者さんは「今」を分かっています。だから「今」を毎回続けてあげればいいのです。「今楽しい、そして明日も楽しい、そして明後日も」と。だって、食事をしてもどうせまたおなかがすくでしょう。だから食べても意味がないなんて誰も思わないでしょう。「今」を楽しく。それを続けてみると、患者さんの表情は必ず変わってきます。以前の優しかった笑顔が戻ってきます。(文 海原純子)


吉田勝明(よしだ・かつあき)

福岡県出身。1982年金沢医科大卒、88年東京医科大大学院卒。国立がんセンターなどの勤務を経て、93年横浜相原病院院長に就任。日本老年精神医学会専門医、神奈川県教育委員、金沢医科大医学部客員教授。全日本音楽療法連盟認定音楽療法士。「不登校カウンセリング」「職場うつからの生還」などの著書がある。


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