失語症〔しつごしょう〕 家庭の医学

 失語症は言語障害の一つで、脳血管障害で生じます。言語の要素は、①聞く、②話す、③読む、④書く、⑤計算するからなり、失語症ではこうした要素の機能が拙劣(せつれつ)になります。
 しばしば認知症とまちがわれますが、知的にはわるくはありません。わが国では、教育は「読み書き算盤(そろばん)」といわれ寺子屋でも強調されてきました。ただし、聞いて話す能力はあらためて教育しなくとも自然に身につくと考えたのでしょう。認知症ではこの「読み書き算盤」が障害されます。
 失語症では、言語中枢の障害のために見かけのうえで上手に話せなくなる場合と、よく話をするのですが、なにを言っているのかさっぱりわからない場合があります。前者を非流暢型(ひりゅうちょうがた)、後者を流暢型といい、この2つに分けて診断します。

■非流暢型
1.運動性失語
 1861年、フランスのブローカが左の大脳の脳血管障害のあと、ことばを話すことができなくなった患者を報告しました。この症例をウェルニッケが1874年、運動性失語と命名し現在に至っています。
 運動性失語は右利きの人では左半球の運動言語中枢の損傷で生じ、自発語、復唱、書字、計算のように言語の要素のなかでも運動的要素の強いものがいちじるしく障害されます。文章を書くと文法に乱れのあるのも特徴です。聞く、読むについては障害はないか軽度です。
2.超皮質性運動失語
 「超」がついているので不思議な印象をもちますが、運動性失語の一つで、復唱能力だけが優れる場合のほかは運動性失語と変わりありません。復唱というのはオウム返しに答えるのと同じで、反射レベルの機能にすぎず、理解しているわけではありません。

■流暢型
1.感覚性失語
 1874年のウェルニッケの論文に記載されたことから、感覚性失語あるいはウェルニッケ失語とも呼ばれるものです。急性期は話しかけると抑制なくベラベラしゃべるのですが、なにを言っているか理解するのが困難です。これを饒話(じょうわ)やジャルゴンなどといいます。
 脳の損傷部位は左大脳半球の感覚性言語中枢(ウェルニッケ言語中枢)の脳血管障害で生じます。急性期は精神異常とまちがわれるような症状も、経過とともに少しずつ回復しますが、聴覚的言語理解が低下し、話すほうも錯語(さくご)があり、読み書きも拙劣になります。長期的言語のリハビリテーションにより改善しますが、喚語(かんご)困難、すなわちことばを思い出しにくい症状が長く残ります。
2.超皮質性感覚失語
 感覚性失語のなかで単語や文を聞かせて復唱させるとスラスラ答えるのにもかかわらず、まったくその内容を理解していない場合をいいます。失語がない人のオウム返しの返事というのは、ものを深く考えなくてもできることがこのような失語でよくわかります。

■全失語
 運動性失語と感覚性失語の両方が広範囲な言語半球の障害で生じたもので、言語能力の読む、書く、聞く、話す、計算するなどのすべてが失われます。しかし、認知症ではありません。正しい評価が重要です。このような場合でも、歌うことができることが多く、音楽能力は言語能力とは脳の中の担当する部位が違うと考えられます。

【参照】脳・脊髄・末梢神経・筋の病気:失語症

(執筆・監修:独立行政法人 国立病院機構東京医療センター 臨床研究センター 人工臓器・機器開発研究部長 角田 晃一
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