「医」の最前線 新専門医制度について考える

信頼できる精神科専門医をどう選ぶか
~病院不信とクリニック乱立の時代~ 第11回


森医師

森医師

 ◇非自発入院、身体拘束の在り方

 実際のところ、自傷行為や他人に襲い掛かるなど、本人や家族、他の人の安全確保や生命を守るために、非自発入院、隔離や身体拘束などの行動制限は薬を処方し、症状を安定させるといった治療の一環としてやむを得ず行われています。もちろん隔離や拘束が漫然と行われることがないよう、精神保健福祉法という法律に従って、原則少なくとも1日に1回は医師が診察を行い、1人の医師の独断ではなく、複数の医師によって必要性が判断します。非自発入院や身体拘束の在り方については、人権擁護の観点から時間をかけて議論し、適正基準の見直しが常に行われています。

 ◇信頼のおける病院・クリニックにかかるために

 精神科病院に限ったことではありませんが、ごくまれに虐待などの人権侵害が問題となっている病院が存在していることも事実です。精神衛生法成立の前年1949年に精神障害者への適切な医療提供や人権擁護と社会復帰の促進を図るため、日本精神科病院協会が設立されました。この団体に加盟する全国1200余りの病院に関しては、所属医師の資格の有無、厳しい審査やチェックなど、加盟病院間で連携しながら調査や報告が行われています。精神科病院を選ぶに当たっては、まずこちらのホームページに掲載されているかどうかを確認していただければと思います。

 ◇精神科医が精神障害者の家庭に赴く

 自宅に引きこもって病院に行けない人たちのために、2022年4月から行政の依頼により、医師が自宅に出向いて診察を行うことができるようになりました。受診を拒む患者さんに対しては、今までは警察官に通報するか、家族が無理やり病院に連れて行くことしかできなかったのですが、精神科医が直接、当事者と接することができるようになったのは大きな進歩だと言えます。

 ◇地域で精神障害者を支える仕組みづくりを

 今後、精神科病院の稼働病床は確実に減っていきます。5年以内に半数ぐらいになるかもしれません。そのために将来的には一般診療科と同じように、精神科病院とメンタルクリニックが連携した役割分担ができれば良いと思っています。

 精神科医療の最終目標は患者さんの自立です。地域に戻すだけでなく、そこで働いて税金を払って、自分の力で生活できるようになることです。障害者雇用は精神障害者以外では進んでいますが、精神障害者はなかなか仕事を得るのは難しいのが現実です。地域移行に当たっては、病院とメンタルクリニック、多職種の連携が必須であり、成功させるには地域の人と交流の場をつくり、地域全体で患者さんをサポートできる体制が不可欠なのです。

 ◇精神科医の思想・哲学の違いが影響

 精神科と一般的な診療科との大きな違いは、思想・哲学と結び付けて考える学識経験者などがいることです。例えば、内科であればガイドラインに沿って検査・診断を行うので、治療や考え方にそれほど大きな違いが出ることはありません。けれども精神科の場合は、入院治療は要らないという人と、入院治療は必要だという人がいます。入院期間が長過ぎるという人もいれば、適切だという人もいる。精神科医によって思想・哲学の違いが診断や治療に影響することもあるので注意が必要です。(了)

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