「医」の最前線 「新型コロナ流行」の本質~歴史地理の視点で読み解く~

5類移行は流行拡大に影響したか (濱田篤郎・東京医科大学病院渡航者医療センター特任教授)【第63回】

 新型コロナウイルス感染症が5類に移行されて1カ月が経過しました。「定点把握」という方法で感染者数が報告されるため、感染状況が以前より分かりにくくなっていますが、厚生労働省は最近の状況を「緩やかに感染者数が増加している」と評価しています。今回は新型コロナの5類移行後の感染状況と、今後の動向について解説します。

コロナの5類移行後はイベントも相次いで復活し、多くの人が集まる機会が増えている。写真は日本三大祭りの一つ、神田祭。(2023年5月、東京都)

コロナの5類移行後はイベントも相次いで復活し、多くの人が集まる機会が増えている。写真は日本三大祭りの一つ、神田祭。(2023年5月、東京都)

 ◇全数把握から定点把握へ

 2023年5月8日、新型コロナ感染症法上の2類相当から5類に移行されました。これに伴い、新規感染者数の発表が「全数把握」から「定点把握」へと変更となりました。今までは全ての医療機関からの報告数を厚労省や自治体が毎日発表していましたが、5類移行後は、5000カ所の定点医療機関からの報告数を毎週1回発表するようになったのです。

 厚労省は全国の数値を発表しており、5月8日から14日の1週間は2.63人、21日は3.55人、28日は3.63人、6月4日は4.55人でした。この数値は、一つの定点医療機関を1週間に受診した感染者数の平均になります。

 この数値だけ見ても、それが多いか少ないかを判断するのは難しいですが、増加傾向にあることは確かで、厚労省も「緩やかに増加している」というコメントを出しています。また、都道府県別に見ると東日本や沖縄県が多く、沖縄県では6月4日までの1週間が15.80人と最多でした。

 ◇過去の流行状況との比較

 それでは、現在の感染者数は5月8日以前に比べて、どのような状況にあるのでしょうか。私たちは過去3年半に第8波までの流行を経験し、流行の拡大期には感染対策を強化することで、それを乗り越えてきました。このため、現状を過去の流行状況と比較することは、感染対策に強弱をつける上で大きな意味があります。

 こうした目的もあり、厚労省は5月8日以前のデータを、それまで定点把握していたと仮定した数値で発表しています。これによると、現在の感染者数は今年2月中旬から下旬の第8波後半の数値に一致します。ただし、当時は2類相当だったため、国民の皆さんは新型コロナの疑いがあれば、積極的に検査を受けていた時期で、5類に移行した現在とは検査を受ける状況が異なります。このため、現在の数値と2類相当時の数値を単純に比較することはできないのです。

 ◇「注意報」や「警報」の発令を

 そうなると、定点把握の数値から直接、流行状況を判断する必要があります。厚労省ではこの指標として、インフルエンザの定点把握に用いている「注意報」や「警報」を新型コロナにも導入することを検討中です。

 インフルエンザでも同様の定点把握を行っており、数値が10人を超えたら「注意報」、30人を超えたら「警報」を発令します。新型コロナでも同様の指標があれば、「注意報」の段階で感染対策をやや強化し、「警報」の発令で厳しい対策を取るといった対応が可能になるのです。

 ◇緩やかな増加の原因

 ところで、定点把握が始まった5月以降、国内で感染者数が次第に増加している原因はどこにあるのでしょうか。

 まず考えられるのは、5類への移行により国民の間で感染対策が緩んだという点です。それまではマスク着用が広く行われていましたが、5類移行後は着用しない人も増えてきました。また、2類相当の時は、感染者の自宅待機などが自治体主導で厳密に行われていましたが、5類移行後は国民が自主的に行うことになっています。こうした感染対策の緩和が感染者数の増加を起こした原因の一つになるでしょう。

 もう一つ考えられる増加の原因は、免疫効果の減衰です。日本では第8波までに3000万人以上が感染したとともに、ワクチン接種も3回目まで受けた人が70%近くに上っています。こうした感染やワクチン接種による免疫が新型コロナの流行を抑えるのに有効とされていますが、それが次第に減衰しており、これも感染者が増加している原因と考えます。

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