「医」の最前線 「新型コロナ流行」の本質~歴史地理の視点で読み解く~

5類移行は流行拡大に影響したか (濱田篤郎・東京医科大学病院渡航者医療センター特任教授)【第63回】

オミクロン株に対応したワクチンの接種(2022年9月、東京都)

オミクロン株に対応したワクチンの接種(2022年9月、東京都)

 ◇このまま夏の流行になるのか

 現在の緩やかな増加が今後も続き、夏の流行に至るのかという点も関心のあるところです。日本では21年、22年と連続して夏の流行が起きたため、今年もそれを想定した対策を取ることは必要ですが、過去2年の夏の流行は季節的な要因ではなく、ウイルス側の要因が大きかったようです。21年はデルタ株、22年はオミクロン株BA5系統と、新たな感染力の強い変異株が国内に流入したために起こった流行でした。

 現時点での世界的な変異株の状況を見ると、オミクロン株XBB系統が世界の分離株の大多数を占めています。この変異株は免疫回避を起こすものの、感染力は従来の株と変化ないとされています。そして日本でもXBB系統が現在の緩やかな増加を起こしているのです。

 こうして考えると、現在の増加傾向が、そのまま夏に大きな流行を起こす可能性は低いでしょう。ただし、こうしたウイルス側の要因とは別に、日本ではお盆の時期に人流が増すため、それによる小規模な流行が起こる可能性はあるかもしれません。

 ◇コロナ以外の感染症が拡大

 このように5類への移行は、新型コロナ感染者数の緩やかな増加を起こすなど、流行拡大に一定の影響を及ぼしている可能性はありますが、これは想定内のことだと思います。それよりも、コロナ以外の感染症の流行が5月以降、国内で起きており、これにも5類への移行が影響しているようです。

 例えば、インフルエンザの流行が5月になり再燃しています。これは、過去2年間にわたりインフルエンザの流行がなく、国民の免疫が低下していた中で、5月にマスク着用などの感染対策を緩和したことが原因の一つと考えられます。同様にRSウイルスやヘルパンギーナなど、子どもの呼吸器感染症も5月から増加傾向にありますが、5類移行に伴う感染対策の緩和が関与しているようです。

 新型コロナの流行で、私たちは過去に経験したことがないほどの厳しい感染対策を実践してきました。それにより、新型コロナの流行は制御できる段階にまで抑え込みましたが、この感染対策でインフルエンザなどの流行も抑え、その間に、これら感染症への免疫が低下してしまったのです。そして、感染対策を緩和した後に、こうした感染症の増加を招いているのが現状ではないでしょうか。
 
 5類移行に伴う感染対策の緩和は、私たちが日常生活に戻るために必要不可欠な過程です。それを円滑に進めるためには、新型コロナだけでなく、それ以外の感染症への監視も強化していく必要があります。(了)

濱田特任教授

濱田特任教授


 濱田 篤郎(はまだ・あつお)氏
 東京医科大学病院渡航者医療センター特任教授。1981年東京慈恵会医科大学卒業後、米国Case Western Reserve大学留学。東京慈恵会医科大学で熱帯医学教室講師を経て、2004年に海外勤務健康管理センターの所長代理。10年7月より東京医科大学病院渡航者医療センター教授。21年4月より現職。渡航医学に精通し、海外渡航者の健康や感染症史に関する著書多数。新著は「パンデミックを生き抜く 中世ペストに学ぶ新型コロナ対策」(朝日新聞出版)。

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