「医」の最前線 感染症・流行通信~歴史地理で読み解く最近の感染症事情~
呼吸器感染症の季節
~今シーズンの主役はインフルエンザ~ 東京医科大客員教授・濱田篤郎【第13回】
本格的な冬を迎え、インフルエンザの流行が拡大しています。厚生労働省の定点報告では2024年12月末に患者数が過去最多となり、年明け後もその勢いが続いています。COVID-19(新型コロナウイルス感染症)も流行期に入りましたが、インフルエンザに圧倒されてあまり目立たなくなりました。これに加えて、中国ではヒトメタニューモウイルスという耳慣れない呼吸器ウイルスが流行しているとの情報が流れています。今回は今冬の呼吸器感染症の現状と今後について解説します。

マスク姿も目立つ年末の帰省ラッシュ=2024年12月28日、JR東京駅新幹線ホーム
◇インフルエンザの爆発的流行
今シーズンのインフルエンザは24年11月から流行期に入り、12月末には患者の定点報告数が64.4人と過去最多を記録しました。25年の年明けは、年末年始に休診していた医療機関もあり一時減少しましたが、まだまだ患者数は多い状況です。この結果、医療機関が大混雑するとともに、欠勤者が増えることで社会生活への影響も生じています。
本連載で何回か解説したように、冬は気温の低下などで呼吸器感染症、とりわけインフルエンザが広がりやすい環境にあります。今シーズンはそれが爆発的な流行になったわけですが、なぜここまで拡大してしまったのでしょうか。
◇5シーズンぶりのH1N1型
インフルエンザはCOVID-19の流行が始まってからしばらく抑え込まれていました。これが昨シーズン(23~24年)は再燃し、23年秋から24年3月にまで及ぶ長期の流行になったのです。この時のウイルスはA(H3N2)型が多く見られました。
今シーズン(24~25年)はA(H1N1)型が主流ですが、この型が前回拡大したのは19~20年の冬で、5シーズンぶりの流行になります。この間に私たちのH1N1型への免疫は低下してしまったため、今シーズンは多くの患者が発生しているのです。
世界的にも、北半球ではインフルエンザの流行が24年12月ごろから始まっており、H1N1型が拡大している韓国や英国では、患者数が日本と同様に大きく増えている状況です。
今後、B型のインフルエンザウイルスが拡大することも予想されており、患者数はさらに増える可能性があります。今からでもワクチン接種を受けておくことを推奨します。人混みでのマスク着用や手洗いなどの予防対策も十分講じるようにしましょう。
◇COVID-19の静かな流行
COVID-19の冬の流行も24年12月から始まりました。定点報告数は5~7人で、昨シーズンのこの時期と同等ですが、インフルエンザに比べて1桁少ない数のため、あまり目立たない静かな流行になっています。ただし、例年、COVID-19の患者数は1月末から2月にかけてピークを迎えるため、これから増加していくと予想されます。

インフルエンザと新型コロナウイルス感染症の定点当たり報告数の推移(厚労省ホームページより)
入院患者数は高齢者を中心に昨シーズンよりも増えています。高齢者は重症化リスクが高いため、コロナワクチンの定期接種が24年10月から始まっていますが、有料になったことも影響し、接種率はかなり低い状況にあります。このため、重症化して入院を要する高齢者が今シーズンは増えているのです。定期接種をまだ受けていない高齢者は、今からでも受けることを推奨します。それとともに、症状があれば早めに医療機関を受診するようにしてください。
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(2025/01/22 05:00)