「医」の最前線 感染症・流行通信~歴史地理で読み解く最近の感染症事情~

呼吸器感染症の季節
~今シーズンの主役はインフルエンザ~ 東京医科大客員教授・濱田篤郎【第13回】

 ◇欧州では増えていない

 COVID-19の冬の流行は、日本だけでなく米国でも起きていますが、不思議なことに欧州では患者数があまり増えていません。欧州疾病予防管理センター(ECDC)や英国保健当局のデータを見ても、24年の夏以降、患者数は減少傾向にあります。今後、増加することも考えられますが、こうした傾向は現在のウイルス株に由来するのかもしれません。

 世界保健機関(WHO)の報告では、現在流行中のウイルス株の主流は、世界的にオミクロン株のXEC型になりつつあります。このXEC型は発生当初、免疫逃避をしやすい可能性があり、世界的に患者数が増えることが懸念されていましたが、今のところその傾向は見られていません。
 欧州でこのままCOVID-19の冬の流行が起きなければ、終息に向かっている兆候とも取れますが、ここは慎重に判断した方がいいでしょう。

 ◇ヒトメタニューモは脅威か

 COVID-19の流行が起きてから5年が経過する中、これが発生した中国で、ヒトメタニューモウイルス(hMPV)による肺炎がはやっているとの情報が流れています。耳慣れないウイルスに、新たなパンデミックを心配する声も聞かれますが、WHOは1月7日に「その心配は今のところない」との見解を発表しています。

 hMPVは以前から風邪の原因として知られていました。COVID-19の原因である新型コロナウイルスが未知のウイルスであったのとは異なります。また、hMPVにかかると風邪症状を起こすとともに、子どもや高齢者では肺炎になることもありますが、それで死亡するケースは少なく、これも新型コロナとは異なる点です。

 では、なぜ中国でhMPVの感染者が増加しているのでしょうか。WHOの報告によれば、中国では日本と同様、24年12月からインフルエンザの患者が増加しており、呼吸器感染症が増えているのは確かです。その中にhMPVの患者も一部いるようですが、それは例年の範囲内とのことです。

 ただ、COVID-19の流行中に感染対策を強化したことで、hMPVの感染も一時少なくなり、その免疫が低下したため、対策解除後に患者数が増えた可能性はあります。また、最近は呼吸器ウイルスの遺伝子検査が簡易キットでできるようになったため、hMPVの感染を検出しやすくなったことも影響しています。

 いずれにしても、中国でのhMPVの患者数増加は、次なるパンデミックの脅威になるものでは今のところありません。今後、日本で増加しても、マスク着用や手洗いなどの一般的な予防対策で防げる感染症です。

 このように、今冬は呼吸器感染症の話題が豊富ですが、その主役はインフルエンザになるでしょう。まだまだ冬の気候が続くので、これからも予防対策を強化するようにしてください。(了)

濱田客員教授

濱田客員教授


濱田 篤郎(はまだ・あつお)

 東京医科大学病院渡航者医療センター客員教授
 1981年東京慈恵会医科大学卒業後、米国Case Western Reserve大学留学。東京慈恵会医科大で熱帯医学教室講師を経て2004年海外勤務健康管理センター所長代理。10年東京医科大学病院渡航者医療センター教授。24年4月より現職。渡航医学に精通し、海外渡航者の健康や感染症史に関する著書多数。新著は「パンデミックを生き抜く 中世ペストに学ぶ新型コロナ対策」(朝日新聞出版)。

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