「医」の最前線 感染症・流行通信~歴史地理で読み解く最近の感染症事情~

百日ぜきと麻疹には、かかりやすい年齢がある 東京医科大客員教授・濱田篤郎【第16回】

 麻疹は20~40代 

 麻疹は昨年も春に患者数が増えました。今年もこれから増加する可能性がありますが、爆発的な流行にまでには至らないと考えます。なぜなら、日本では小児への麻疹ワクチンの接種が十分に行われているからです。

 現在、ベトナムなどのアジア諸国では麻疹が大流行していますが、小児の患者がほとんどです。これは、百日ぜきワクチンと同様に、コロナの流行拡大中に麻疹ワクチンの小児への定期接種が停滞したためです。また、米国でも今年はテキサス州などを中心に、4月中旬までに700人を超える麻疹患者が発生しており、これも大多数が小児です。米国では近年、ワクチン忌避が広がっており、その影響で小児への麻疹ワクチンの接種率が低下しているためと考えられています。

 一方、日本では患者の大多数が20代から40代で(図2)、アジア諸国などに渡航中に感染し、帰国後に発病するケースが多くを占めています。日本では小児の麻疹ワクチン接種率が高率であるため、子どもの患者数は幸いにも少なくなっています。子どもが麻疹に感染すると肺炎脳炎を起こし死亡することもあるため、小児のワクチン接種率は今後も高く維持していかなければなりません。

麻疹発生状況調査(2025年4⽉2⽇現在)=国立健康危機管理研究機構 感染症情報提供サイトより

麻疹発生状況調査(2025年4⽉2⽇現在)=国立健康危機管理研究機構 感染症情報提供サイトより

 日本では現在、麻疹ワクチンの流通量が少なくなっており、まずは小児の定期接種を優先的に進め、大人は本当に必要な人に限定すべきです。これには、アジア諸国など流行国に滞在する人で、ワクチンを2回接種していなかったり、過去に麻疹に感染していなかったりする人が該当します。この世代が日本では20代から40代になるのです。

 ◇高齢者では引き続きコロナが脅威

 このように最近話題になっている百日ぜきや麻疹は、高齢者にはリスクが低いようです。一方、これからの季節、この世代にリスクが高まってくる感染症新型コロナです。

 昨年から今年の冬にかけては、新型コロナの流行があまり拡大せずに収束しましたが、今年の夏には再燃する可能性が高くなっています。特に今年は大阪で万国博覧会が開催されるため、訪日外国人がさらに増えることが予想されており、この影響で新型コロナの患者数も増加する可能性があります。

 高齢者が新型コロナに感染すると重症化することもあるため、この世代は、今年も夏の季節は、手洗いや、人混みでのマスク着用、部屋の換気に心掛けていただきたいと思います。

 感染症の流行と一口に言っても、かかりやすい年齢層があることを、ぜひ覚えておいてください。(了)

濱田客員教授

濱田客員教授


 濱田 篤郎(はまだ・あつお)

 東京医科大学病院渡航者医療センター客員教授

 1981年東京慈恵会医科大学卒業後、米国Case Western Reserve大学留学。東京慈恵会医科大で熱帯医学教室講師を経て2004年海外勤務健康管理センター所長代理。10年東京医科大学病院渡航者医療センター教授。24年4月より現職。渡航医学に精通し、海外渡航者の健康や感染症史に関する著書多数。新著は「パンデミックを生き抜く 中世ペストに学ぶ新型コロナ対策」(朝日新聞出版)。

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