「医」の最前線 新専門医制度について考える

幅広い知識を持つ、寄り添う医師へ
~新制度で内科専門医はどう変わる?~ 第6回

 地域のかかりつけ医として一番身近な存在でもある内科医は、全医師の3人に1人を占める。内科の専門医制度は1968年に内科系唯一の内科専門医制度(認定制度)としてスタートした。近年、内科学の細分化が進み、多くの臓器別の専門医制度が設立されている。新制度では、内科専門医を基本領域とし、臓器別の標準治療を担う、サブ領域専門医であっても全身を診ることができる高いレベルの内科医が育成されている。新制度の内科専門医や患者に与える影響について、日本内科学会専門医制度審議会会長を務める横山彰仁医師に聞いた。

横山彰仁医師

横山彰仁医師

 ◇医学の進歩により、内科学が臓器別に専門分化

 内科に限らず、医学は急速に進歩しています。狭い分野を掘り下げていかないと世界レベルの学問の進歩に付いていけなくなるため、学問に裏打ちされた内科学の細分化が進んだのです。

 2003年までは、内科医になるには医学部を卒業して3年間は内科の医局で研修し、内科の認定医となり、さらに3年間、循環器、呼吸器、消化器といったサブスペシャルティの専門研修を行って専門医資格を取得するという2段階制になっていました。多くが大学で学んだわけですが、当時は大講座制*で比較的狭い分野を学びながらも、他のいくつかの領域も裾野を広げつつ学んでいました。ゼネラリストとしてもスペシャリストとしても通用できるレベルの高い研修の環境が整っていたように思います。

 ◇新医師臨床研修制度による内科医研修への大きな影響

 04年から新医師臨床研修制度が始まり、研修医は最初の2年間に基本的な診療能力を身に付けるため、複数の診療科をローテーションして、幅広い分野で研修を受けることが法制化されました。それにより、旧制度で研修医が医局で行っていた3年間の内科研修のうち、最初の2年間が臨床研修に充てられることになりました。このため、濃度の高い内科研修は3年から1年に短縮される形になりました。

 大病院や大学では、1年間の内科研修修了後は、そのまま臓器別専門研修に進むことになります。その結果、全身を診るような修練ができていない医師が多く輩出されました。大病院であれば問題ないのかもしれませんが、市中の中小病院の内科では、さまざまな分野を広く診ることができるゼネラルな医師が求められることが多く、臨床現場で不都合が生じるようになったのです。

 ◇内科疾患8割の実質的な経験を積む

 このようなミスマッチを解消するために、新専門医制度が始まるタイミングで内科専門医についても、幅広い内科の基礎をしっかり学ぶことになりました。内科では、すべての領域を70疾患群という病気のグループに分けているのですが、新制度の内科専門医は、それらの疾患群(修了要件は8割にあたる56疾患群)については必ず経験することになりました。かつ3年間で200症例(修了要件は160例)を責任者(主担当医)として診療し、より広く、より多くの実質的な経験を積んでもらうことを必須としました。

 ◇医師の内科診療のスキルを保証

 医師資格を取得した直後は診療経験がなく、診療スキルは身に付いていません。症例の経験値が高ければ高いほど、診療スキルは上がります。そのため、研修では自分が経験した興味深い、あるいは教訓的な症例をきちんと記録しておく病歴要約を提出してもらって、それを評価しています。病歴要約は、その医師の実力を推測できる良い評価ツールでもあります。

 例えば、これまでは脳血管障害の患者さんが多い病院で研修する専攻医(後期研修医)の場合、脳血管障害が主病名でも、ぜんそく糖尿病、心筋梗塞といった他の病気も持っていると、それぞれの病気の経験として認めていました。

 新制度では、その患者さんの主病名が、ぜんそく糖尿病、心筋梗塞ではない場合は認められないということになりました。指定されている病気の症例を実質的な経験として持っていなければ、内科専門医試験の受験資格が得られないということになったのです。

 製品の品質や性能を定めたJIS規格(日本産業規格)というのがありますが、内科専門医の資格というのは、標準的な内科診療のスキルを持っていることが保証されているといった、内科医のJIS規格のようなものだと考えていただければと思います。

 ◇さらにレベルの高い総合内科専門医

 複数の病気を持つ高齢者が増える中で、ほとんどの内科疾患を地域の内科専門医が診療できるようになれば、患者さんにとっても便利で安心できるシステムだと考えられます。そのためにも、医師には幅広い内科の知識と診療技術が必要です。新しい制度の内科専門医はそれを目指しているのです。

 しかし、例えば車の修理をするのに、町の修理屋さんに行っても直せないときはディーラーに持って行くと思うのですが、それと同じで、内科専門医にかかれば、内科の標準的な病気は治せますが、より複雑な病気である場合、レベルの高い総合内科専門医が必要になります。全身にわたる複雑な病態を解きほぐして、循環器や呼吸器といった臓器別専門医とともに診療してくれます。全身を診る能力レベルが一段上の内科のゼネラリストであり、「ドクターのドクター」が総合内科専門医なのです。

 総合内科専門医は、内科専門医よりも深い知識や経験を持つ、ゼネラリストの中のスペシャリストです。循環器や呼吸器、消化器のようなサブスペシャルティの専門医と同じような位置付けとして、サブ領域専門医と同様に目指されるべき専門医と考えています。

 現在、日本内科学会の会員は11万人超、そのうち認定内科医が87,465人。新制度では2020年に認定内科医の認定が廃止され、今後は日本専門医機構が認定する内科専門医へと移行していきます。内科専門医を取得すると、総合内科専門医の受験が可能となります。指導医となるためには、総合内科専門医の資格が必要とされるため、現在会員全体の34%を占める37,882人が総合内科専門医の資格を取得しています(2021年10月現在)。

 ◇勤務地に関係なく、研修の進捗(しんちょく)をWeb上で管理

 新しい内科専門医制度では、基本領域のプログラムがある基幹施設に所属しながら、他の研修施設をローテートし、3年間で2カ所以上の施設で勤務することが必須となっています。研修が一つの施設で完結しないことで、都市部の大病院から地域の中小病院まで、さまざまな環境で多様な経験を積むことができます。また、Web研修手帳(J-OSLER)で管理するため、研修の途中で出産や育児、留学など、個人的な事情でキャリアを中断しても、途中から再スタートできますので、医師のライフイベントに合わせ、また多くの経験を積んでから、専門医の資格を取得する医師も増えてくるでしょう。

 さらに、今まで各施設が独自に行なっていた研修の様子を外部から顕在化できるようになりました。Web上で管理することで、どの施設が、どの専攻医に、どのような研修を行なっているかが一目で分かるようになりました。それが必ずしも研修の質の担保につながるわけではないかもしれませんが、今まで外から全く見えなかったものが見えるようになり、これも一つの指標だと考えています。J-OSLERは始まったばかりということもあり、入力の手間や操作面でまだまだ多くの課題はありますが、改善を加えながら続けていきたいと思います。

 ◇最短で専門医資格を取得する人が75%にUP

 18年から始まった新内科専門研修は3年間の研修期間が終わり、21年に初めて新しい制度の内科専門医が誕生します。75%の専攻医が研修を修了し、専門医試験を受け、1,865人が合格しました。内科専門医試験合格者1,865人のうち587人はCOVID-19措置対象者で、現段階では修了要件が一部未了、確認中となっています。

 今まで専門医資格の取得は個人任せのところがあり、内科専門医を志望していても、そのうち取ればいいということで先延ばしにされることも多く、最短の3年で研修を終わらせて試験を受ける人は半数もいませんでした。循環器や呼吸器といったサブスペシャルティまで取る人は最短でも6年かかるのですが、そちらになると2割程度です。そう考えると、最短で研修を終わらせた人が75%という数字は大変素晴らしいと思います。研修の状況が見えるようになったことで、本人だけでなく担当指導医の力の入れ方も違ってくるのでしょう。

 ◇知識や技術だけでなく、人として信頼できる医師に

 これまで患者さんは、狭くて深い分野で活躍しているサブスペシャルティの専門医を受診する傾向にありました。これからは領域専門医であっても、全身を診られる知識と標準的な診療技術を、より高いレベルで身に付けた優秀な内科専門医が養成されていきます。

 医師は公益性や道徳性が強く求められる専門職でもあり、社会の要請に応えるという責務もあります。専門医の取得には患者さんの痛みが分かる、自己犠牲の精神が備わっているといった、プロフェッショナリズムも重視されます。研修プログラムには、さまざまな立場の人が評価する「360度評価」が加わり、コメディカルに対する態度や連携、コミュニケーション能力についても評価の対象となります。

 一つの技術に秀でたスーパードクターではないけれど、技術的にも人としても信頼のおける内科医が身近にいて、いつも安心して診てもらえる。そんな社会が持続し、さらにより良くなることを期待しています。 (了)

大講座制* 一つの講座でいくつかの領域を担当し、教授、准教授、助教授、講師などが、それぞれの専門分野に応じて研究を行う伝統的な大学制度

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