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膵臓がん、発見・治療難しく 【第8回】

 今回は膵臓(すいぞう)がんについて説明します。一般的に発見・治療が難しいがんとして知られていますが、検診を通じて思いがけず見つかる場合もあります。膵臓がんと関わりが深い生活習慣や病気も分かりつつあるので、今回の記事をきっかけに知識を深めてください。

膵臓と周囲の臓器(出典:国立がん研究センターがん情報サービス)

膵臓と周囲の臓器(出典:国立がん研究センターがん情報サービス)

 ◇消化支援と血糖値調節担う臓器

 膵臓は体の左側、胃の後ろに存在する20センチ程度の細長い三角形の臓器です。一般的には右側の膨らんだ部分を「膵頭部」、左側の細い部分を「膵尾部」、中央部分を「膵体部」と呼びます。内部には「膵管」と呼ばれる膵液の通り道があり、胆汁の通り道である胆管と合流し、十二指腸につながっています。

 膵臓の役割は大きく分けて二つ。外分泌機能と内分泌機能です。

 1. 外分泌機能

 膵臓では食物の消化を助ける膵液が作られ、膵管を通って十二指腸に分泌されます。膵液には糖質を分解するアミラーゼ、タンパク質を分解するトリプシン、脂肪を分解するリパーゼなどの消化酵素が含まれています。

 2. 内分泌機能

 内分泌機能はランゲルハンス島と呼ばれる部分から出るインスリンやグルカゴンによって血糖値の調節を行う役割が中心です。インスリンは血糖値を低下させるホルモンで、主に食後に分泌され、細胞に糖を取り込みます。一方、グルカゴンは血糖値を上昇させるホルモンで、主に空腹時に分泌され、肝臓から糖の放出を促進します。

膵臓がんの罹患数と死亡数(出典:国立がん研究センターがん情報サービス)

膵臓がんの罹患数と死亡数(出典:国立がん研究センターがん情報サービス)

 ◇患者急増、低い生存率

 膵臓がんによる日本人の死者は2022年で3万9468人に上り、がんの中で肺がん胃がん大腸がんに次いで第4位。社会の高齢化に伴い、罹患(りかん)者は高齢者を中心に急増しています。5年生存率は8.5%と非常に低く、予後が悪いがんと言えるでしょう。

 罹患すると次のような症状が見られる場合があります。

 ▼腹痛:おなかや背中に持続的な痛みを感じる。
 ▼体重減少:特に原因がなく、体重が減少する。
 ▼黄疸(おうだん):胆管が閉塞(へいそく)し、皮膚や白目が黄色くなる。
 ▼消化器症状:吐き気嘔吐(おうと)を催したり、脂肪分の多い食事が消化できなかったりする。
 ▼疲労:強い疲労感や気力の低下が起こる。
 ▼糖尿病インスリンやグルカゴンの分泌に支障を来し、特に原因がなく糖尿病を発症する。

 初期の段階では症状がありません。診断を遅らせないためにも、体調の変化を感じたら速やかに診察を受けてください。

 ◇生活の乱れや遺伝がリスク因子

 膵臓がんは初期症状がないために見つけにくいがんです。しかし最近では、幾つかの危険因子が発生に関わっていることが分かっていて、大きく言うと生活習慣などによるものと遺伝の二つに分けられます[1]。生活習慣など、私たちが対応できる因子は次の通りです。

 ▼喫煙:喫煙者は非喫煙者に比べて、膵臓がんのリスクが約1.7倍高くなる。禁煙すればリスクは低下し、10年から20年たつと、たばこを吸わない人と同じ程度まで改善する。
 ▼肥満:体格指数(BMI)が30以上の人は、23未満の人に比べてリスクが約1.7倍高くなる。
 ▼糖尿病:治療が3年以上続く糖尿病はリスクを1.5~2.4倍程度に上昇させる。
 ▼アルコール:アルコールを大量に摂取すると、リスクが高まるという証拠が増えつつあるほか、膵炎のリスクも上がる。膵炎による炎症が膵臓がんの発生につながる可能性もあるため注意が必要。

 遺伝的な危険因子は次の通りです。

 ▼家族歴:親・きょうだい・子どもに膵臓がんの発症者がいる場合、リスクが高くなる。
 ▼遺伝子変異:リスクを高める遺伝子変異が幾つか特定されている。

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