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帯状疱疹、加齢で発症しやすく 【第7回】

 今回は高齢者の方が注意すべき帯状疱疹(ほうしん)と、その予防のためのワクチンについて紹介します。帯状疱疹は水膨れを伴った発疹が体に生じる病気です。発症すると、皮膚の症状がなくなった後も長い間にわたって痛みが残る帯状疱疹後神経痛(Postherpetic neuralgia: PHN)が現れることがあり、注意が必要です。

帯状疱疹にかかると神経に沿って発疹が現れ、ピリピリとした痛みも

帯状疱疹にかかると神経に沿って発疹が現れ、ピリピリとした痛みも

 ◇水ぼうそうのウイルスが体内に潜伏

 子どもの頃に水痘・帯状疱疹ウイルスに感染すると水痘、いわゆる「水ぼうそう」になり、良くなった後もウイルスは体の神経に潜伏感染し、生涯にわたって体の中に潜んでいます。

 帯状疱疹は潜んでいたウイルスが加齢や免疫力の低下に伴って再び活性化した状態で、神経の分布に沿って帯状に水膨れ(水疱)が出現。水疱が見られる2~3日前からかゆみや痛みを自覚します。水疱ができてから1週間程度で皮膚症状もピークとなり、発熱頭痛などが見られる場合もあります。その後、水疱はかさぶたのようになり、2〜4週間たつと治まってきます。

 ◇80歳までに3分の1発症か

 水ぼうそうは現代の日本で9割以上の方が幼少期に感染したと考えられています。つまり、水痘・帯状疱疹ウイルスはほとんどの方の神経に潜伏していると言えます。病気や加齢によって帯状疱疹が現れやすくなるため、80歳までに人口の3分の1が発症するとの報告も。この病気をきっかけに、糖尿病やがんといった別の病気が見つかることもあり、注意が必要です。

 水痘にかからなければ帯状疱疹になることもありません。そのため、水痘感染の予防に向け、2014年10月から子ども用の水痘ワクチンが無料の定期接種の対象となりました。1回の接種で重症化をほぼ100%予防でき、2回接種すると軽症も含めて発症を回避できると考えられています。

 ◇早めに抗ウイルス薬投与

 帯状疱疹は帯状に見られる皮膚の症状によって診断されることが一般的です。診断が難しい場合はウイルスに感染した皮膚細胞を染色する検査(ツァンクテスト)をしたり、ウイルスを増幅するPCR検査を行ったりします。最近では、水疱に入っている液体からウイルスの存在を調べるキットも利用できるようになったので、検査については先生に相談してみてください。

 治療は抗ウイルス薬が中心です。皮疹の出現後 3日以内、遅くとも5日以内に投与を開始することが重要で、PHNの発症予防にはできるだけ早い投与が有効と考えられています。通常は内服治療ですが、症状が重い場合は点滴治療が必要なケースも見られます。60代以上の帯状疱疹患者のうち3.4%が入院を必要としたとの研究報告もあります。

帯状疱疹のワクチン(東京都保健医療局ホームページより)

帯状疱疹のワクチン(東京都保健医療局ホームページより)

 ◇ワクチンで予防

 帯状疱疹はワクチンによって予防できます。日本で利用可能なのは生ワクチンと不活化ワクチンの2種類です。生ワクチンは生きた病原体を使うタイプで、弱毒化された病原体が自然な免疫応答を引き起こします。1回の接種で長期間の免疫が得られる半面、病原体そのものを使用するため予期せぬ副作用が生じたり、実際に感染してしまったりするリスクがありました。一方、不活化ワクチンは死滅した病原体や毒素を使っているので、病原体に感染するリスクはありません。

 不活化ワクチンであるシングリックスは2020年1月に日本で発売されました。帯状疱疹の発症を抑制する効果は95%以上、免疫の持続効果も9年以上が期待でき、生ワクチンに比べて優れています。ただし、接種によって作られる免疫力は生ワクチンより弱いため、複数回の接種が必要です。

 シングリックスは1回目の接種から数えて、2カ月後から6カ月後までに2回目の接種を行います。費用は2回で4万円程度とやや高額ですが、自治体によっては生ワクチン、不活化ワクチンともに接種費用が助成されることもあるので、お住まいの自治体に確認してください。

 ◇50歳以上は接種検討を

 帯状疱疹は誰でもかかる可能性のある病気です。皮膚のかゆみや痛み、水膨れが見られた際にはすぐに医療機関を受診し、抗ウイルス薬による治療を受けましょう。予防には免疫力を高めるような健康的な生活が大切ですが、50歳以上の人にはワクチンによる発症抑制効果も大いに期待されます。水疱による痛みや神経痛といった後遺症を予防する観点からも、積極的にワクチン接種を検討してください。(了)

高木院長

高木院長

高木謙太郎(たかぎ・けんたろう)
 2007年東京慈恵会医科大学卒。同大学付属柏病院、東京都立墨東病院、東京都保健医療公社豊島病院などを経て22年5月に四谷内科・内視鏡クリニック(新宿区)を開業。「胃がん大腸がんで亡くなる人をゼロに」をミッションに、人と人のつながりを大切にした、専門的で高度な医療を提供している。



【参照】

1. 国立感染症研究所:帯状疱疹ワクチンファクトシート 第2版
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001266215.pdf

2. 相馬孝光, 竹内常道, 中川秀己. 複発性帯状疱疹の 1 例. 臨床皮膚科 2009; 63: 1045-8

3. Okamoto S, Hata A, Sadaoka K, Yamanishi K, Mori Y. Comparison of varicella-zoster virus-specific immunity of patients with diabetes mellitus and healthy individuals. J Infect Dis. 2009 Nov 15;200(10):1606-10.

4. 新宿区:帯状疱疹ワクチン予防接種費用の助成について
https://www.city.shinjuku.lg.jp/fukushi/yobo01_001178_00004.html

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