GLP-1受容体作動薬は、血糖管理と体重減少の双方を目的とする2型糖尿病治療の一翼を担っている。日本では近年、GLP-1とGIPの両受容体に作用するチルゼパチドが登場し、従来のGLP-1受容体作動薬セマグルチドとの違いが注目されている。しかし、両剤を直接比較した研究は少なく、臨床現場での判断材料は十分でない。米・California Northstate University College of MedicineのJimmy Wen氏らは、2型糖尿病患者を対象としたチルゼパチドとセマグルチドの体重減少効果に関する直接比較研究をまとめたシステマチックレビューおよびメタ解析を実施。セマグルチドと比べチルゼパチドは平均的に大きな体重減少をもたらした一方で、消化器系をはじめとする有害事象の発現率は高い傾向が見られたことなどをEndocrinol Diabetes Metab2025; 8: e70045)に報告した(関連記事「ウゴービとゼップバウンド、最新の処方状況は?」)。

編集部注:チルゼパチドの糖尿病治療薬としての商品名はマンジャロ、肥満症治療薬としての商品名はゼップバウンド、セマグルチドの糖尿病治療薬としての商品名はオゼンピック、リベルサス、肥満症治療薬としての商品名はウゴービ

直接比較に基づく初の定量評価:4研究・約3万例をメタ解析

 血糖管理と体重減少を実現する薬剤として注目されているGLP-1受容体作動薬。中でもチルゼパチドは、肥満症や2型糖尿病の患者において、これら両面で高い効果を示す可能性が指摘されており、セマグルチドとの相違点や使い分けに対する関心が高まっている。一方で、両剤を直接比較した質の高いエビデンスは限られており、有効性や安全性の差異については明確になっていない。

 そこでWen氏らは、PubMed、EMBASE、Cochrane Libraryなどのデータベースから、チルゼパチドとセマグルチドを直接比較した研究を網羅的に検索。4件・2万8,827例〔ランダム化比較試験(RCT)2件、観察研究2件、チルゼパチド1万4,870例、セマグルチド1万3,928例〕を抽出し、ランダム効果モデルを用いてメタ解析を行った。対象の平均年齢は55.7歳、男性33.9%、平均BMIは30.8〜39.1、平均追跡期間は35.9週で、主な評価項目は体重変化および有害事象の発生頻度だった。

 解析の結果、平均体重変化量は、セマグルチド群の-7.3%(95%CI -8.3~-6.1%)に対し、チルゼパチド群では-11.4%(同-15.3~-8.2%)と有意に減少幅が大きかった(群間差-4.84kg、95%CI -6.21~-3.47kg)。有害事象は両群とも消化器症状(悪心、下痢、食欲低下など)が多く、大部分は軽度〜中等度であった。全体として有害事象の発現率に大きな差は見られなかったが、チルゼパチド10mg群および15mg群では、同5mg群やセマグルチド群と比べてやや高い傾向が示された。

期待される今後の検証:安全性や心血管転帰に注目

 以上から、Wen氏らは「2型糖尿病患者において、チルゼパチドとセマグルチドはいずれも軽度〜中等度の有害事象を伴いながらも、体重減少に対して十分な有効性を示した。チルゼパチドは一貫してセマグルチドよりも大きな体重減少をもたらした一方で、有害事象の発現頻度がやや高い傾向が見られた」と結論している。

 同氏らはまた、「チルゼパチドの体重減少効果は用量依存的であると考えられ、背景にはGLP-1およびGIP受容体への二重作用による食欲抑制やエネルギー代謝促進が関与している可能性がある」と考察。この特性を踏まえると、特に肥満を合併する2型糖尿病患者に対する第一選択薬となる可能性がある。一方、セマグルチドについては、心血管転帰に関するRCTの結果を引用し、有効性に言及(Diabetes Metab 2019; 45: 409-418)。心血管疾患の既往を有する患者において有力な治療選択肢となる可能性を示唆している。

 今回の研究は、チルゼパチドとセマグルチドを直接比較した数少ないエビデンスとして、薬剤選択の一助となる成果を示したものの、研究の限界として①対象研究数が少なく、長期追跡データが不足している、②セマグルチドは低用量(0.5〜1.0mg)のデータが中心であり、実臨床で用いられる高用量(2.4mg)に関しては慎重な解釈が求められる、③観察研究を含むことによるバイアスの可能性−などを挙げ、今後はより長期間かつ用量調整を含む大規模な直接比較試験が必要との見解を示している。

(編集部)