育児で基本的なこと 家庭の医学

 育児がもっともたいへんなのは、おそらくマニュアルどおりにいかないからです。思いのままになる電化製品や電子機器とマニュアル流行(ばや)りの社会のなかで、唯一思いのままにならない存在が人間で、そのもっとも思いのままにならない存在が子どもです。でも、思いのままにならないからこそ、人間は成長し、自立した大人になると思ってください。
 親の思いどおりの子どもは、思春期以降に大きな問題にぶつかります。親の顔いろばかりを覗(うかが)っていた子どもは、大きくなってから自分の感情がわからなくなる深刻な心身の問題におちいりがちです。ですから、思いどおりにならない育児にぶつかったら、この子は見どころがあると思って、いらいらを鎮(しず)めてください。きっと、自立心がある独自の人生を切り拓(ひら)く大人になるでしょう。
 子どもにも、育てやすい子と育てにくい子がいます。育てにくい子どもは、多くの場合、そう感じる親とは気質、性格がまるで違い、両方がとまどうことが多いのです。あるいは、親の問題と子の問題が同質のために、育てにくいと感じることもあります。親が育てにくいと感じたら、それと同じだけ、子どもも育ててもらいにくいと感じていると思ってください。その隔たりを小さくするのは、大人の役目です。
 それでもどうしても育てにくい、理解しにくいと感じ続ける場合もあります。そのようなときには、ぜひ小児科医、小児神経科医をたずねてください。子どもの側に発達上の問題が潜んでいることもあります。いたずらに自分のやりかたのせいだと自責せずに、小児科医に相談することがもっとも近道です。

(執筆・監修:自治医科大学 名誉教授 桃井 眞里子)
医師を探す