2022年の診療報酬改定で「透析時運動指導等加算」が新設された。これは1回の血液透析中に連続して20分以上運動指導を実施することで透析に対する診療報酬点数に運動指導等として加算(75点)するものだ。香川大学循環器・腎臓・脳卒中内科学講師の祖父江理氏ら日本腎臓リハビリテーション学会学術委員会調査研究ワーキンググループは、全国の血液透析実施施設を対象に血液透析中の運動指導の実施状況を調査。加算新設後に実施施設が約2倍に増加し、普及の後押しとなっているとSci Rep(2024; 14: 9171)に報告した(関連記事「慢性腎臓病患者の運動指導、問題点を指摘」)。
2022年の加算新設後の運動指導の普及状況を調査
血液透析患者に対する運動療法は、生命予後、身体的QOL、身体活動レベルの改善に有効だ。2018年、日本腎臓リハビリテーション学会は日本初となる『腎臓リハビリテーションガイドライン』を公表、血液透析患者に対する運動療法を推奨するとともに、有酸素運動やレジスタンストレーニングなどの運動療法の具体例を示した。そして2022年、血液透析患者に対する運動療法の普及の追い風となる「透析時運動指導等加算」が新設された。
祖父江氏らは、同加算の新設後の状況を把握すべく、2023年1月31日に日本透析医学会会員である全国の血液透析実施施設4,257施設に運動指導に関する全27項目〔17項目は血液透析患者、3項目は非透析慢性腎臓病(CKD)患者、7項目は施設に関する質問〕の調査票を郵送、3月31日を期日にwebまたは郵送での回答を求めた。
245施設が2022年4月以降に運動指導を開始
4,257施設中1,657施設(39%)が回答。血液透析中に運動指導を行っていると回答したのは550施設(病院266施設、診療所281施設、施設種別なし3施設、回答施設の33%、調査対象施設の13%)で、透析時運動指導等加算を請求済みの施設は357施設(調査対象施設の8%、回答施設の22%、運動指導実施施設の65%)、保険請求が可能となった2022年4月以降に運動指導を開始したのは245施設(55%)だった。加算新設後に実施施設が倍増していることが示された。
運動指導を行っている550施設の85%が『腎臓リハビリテーションガイドライン』を用いていると回答。運動指導の内容(複数回答可)は、下肢レジスタンストレーニング(81%)、次いで有酸素運動(62%)が多く、頻度は週3回が80%と最多、指導時間は20〜30分が66%だった。最も多い組み合わせは有酸素運動+下肢レジスタンストレーニング(48%)だった。指導実施者は医師が45%、看護師が74%、理学療法士が36%だった。運動指導の提供について、施設の種類や理学療法士の有無による差は見られなかった。
8割が運動指導は有効、請求期間経過後も継続と回答
指導効果の評価は請求要件にされていないが76%の施設が実施していた。最も多く評価を行っていた項目(複数回答可)は筋力(49%)、次いでADLおよびQOL(39%)だった。運動耐容能は89施設(21%)が評価、内訳は6分間歩行試験または漸増シャトルウォーキング試験(18%)、心肺運動負荷試験(6%)などであった。運動指導が有効と回答した施設は84%で、90日の請求可能期間経過後も運動指導を継続すると回答した施設は81%だった。
運動療法に伴う有害事象は軽微
血液透析中の運動指導に関連する有害事象を経験した施設は214施設(39%)で、ほとんどが軽微だった。中等度〜重度の有害事象18件の発生時の運動療法の種類は下肢レジスタンストレーニングが8例、有酸素運動が11例で、有害事象の内訳は、心血管障害12例〔不整脈11例(全て洞性頻脈)、胸部不快感1例〕、血液透析回路障害6例(動静脈瘻腕の屈曲による静脈圧の上昇で腕の位置を変えて改善5例、抜針による再穿刺1例)だった。運動指導を終了したのは2例で他は継続した。
非透析CKD患者は加算対象ではないが、154施設(回答施設の9%、調査対象施設の4%)では非透析CKD患者に対する運動指導を実施していた。
運動指導を行っていない1,103施設のうち44%が今後開始する予定と回答。行っていない主な理由は、スタッフ不足(64%)、請求要件を満たせない(39%)だった。
以上から、祖父江氏らは「今回の調査は、保険点数加算の新設から11カ月と早期に実施したが、運動指導を実施する施設数は約2倍に増加し、血液透析患者に対する運動指導の普及が進んだことが確認された。今後、運動指導に関する保険請求承認という社会的戦略が患者の転帰に及ぼす影響を明らかにするため、全国規模の前向き登録コホート研究で評価する予定である」と述べている。
(編集部)