慢性腎臓病(CKD)患者は世界的に増加しており、QOL低下および医療財政への影響が課題となっている。SGLT2阻害薬ダパグリフロジンは2021年に日本初のCKD治療薬として承認された。同薬の費用効果については、尿中アルブミン/クレアチ二ン比(UACR)高値例における良好な結果が報告されている一方で、患者数が多く医療財政への負担が大きいUACR低値例では十分に検討されていない。横浜市立大学循環器・腎臓・高血圧内科学主任教授の田村功一氏らは、より広範のCKD患者における同薬の費用効果について評価する産学連携国際共同研究を実施。その結果、UACRおよび2型糖尿病の有無にかかわらず、ダパグリフロジンの費用効果が高かったClin Kidney J2024年2月9日オンライン版)に報告した。(関連記事「ダパグリフロジン、心不全合併例でも有用」)

第Ⅱ相試験2件の患者データを組み合わせて解析

 田村氏らはCKDに対するダパグリフロジンの有効性および安全性を検討した第Ⅱ相試験2件(DAPA-CKD、DECLARE-TIMI58)の患者データを用い、医療制度が異なる4カ国(日本、英国、スペイン、イタリア)における同薬の費用効果をマルコフモデルにより評価した。 

 DAPA-CKD試験の対象は2型糖尿病の有無を問わない推算糸球体濾過量(eGFR)25~75mL/分/1.73m²、UACR 200~5,000mg/gのCKD患者、DECLARE-TIMI58試験の対象はeGFR 60mL/分/1.73m²以上の2型糖尿病患者。UACRについて評価するため、UACRに基づく組み入れ基準のないDECLARE-TIMI58試験からはeGFR 60mL/分/1.73m²未満および/またはベースライン時にアルブミン尿(UACR 30mg/g超)を有する患者データを抽出(DECLARE集団)し、DAPA-CKD試験データと組み合わせた。

 低アルブミン尿(UACR 200mg/g未満)で非糖尿病の患者データをDECLARE集団から抽出し、DAPA-CKD試験の対象に含まれる非糖尿病患者データの割合はDECLARE集団にUACRと2型糖尿病の状態に関する調整因子を適用して算出。広範なCKD集団の75%が低アルブミン尿例、25%が高アルブミン尿(UACR 200mg/g以上)例で構成されていると仮定した。

 主要評価項目は1質調整生存年(QALY)獲得当たりの増分費用効果比(ICER)とした。1QALY獲得当たりの支払い意思額(WTP)閾値は、日本が5万3,671ドル(500万円)、英国が2万8,777ドル(2万ポンド)、スペインが3万9,063ドル(3万ユーロ)、イタリアが3万2,561ドル(2万5,000ユーロ)とした。

 有害事象の発生は疾病管理費を増大させ有用性が低減するため、体重減少、主要な低血糖イベント、骨折糖尿病ケトアシドーシス、切断を有害事象として考慮した。

 費用は医療費支払者が直接支払う費用のみとし、各国のガイドラインなどに基づき、日本で2%、英国で3.5%、スペインとイタリアで3%の年率で費用を割り引いた。効用値は国別の生命表と関税を用いて算出した。

日本では平均余命が0.8年延長、ICERは1万3,723ドル

 検討の結果、標準治療群と比べてダパグリフロジン群はCKDの早期ステージ(G1~G4)に長くとどまり(13.91年 vs. 14.75年)、1,000人・年当たりの心不全入院の発生率が低く(140 vs. 119)、平均余命が延長していた(日本0.84年、英国0.60年、スペイン0.64年、イタリア0.66年)。

 ダパグリフロジン群における生涯の平均QALY延長は、日本で0.68、英国で0.47、スペインで0.54、イタリアで0.57だった。1QALY獲得当たりのICERは、それぞれ1万3,723ドル(純金銭的便益2万6,989ドル)、1万676ドル(同8,496ドル)、1万4,479ドル(同1万3,255ドル)、7,771ドル(同1万5,587ドル)といずれもWTP閾値を大きく下回り、いずれの国でもダパグリフロジンの費用効果は高いと推定された(

表.日本におけるダパグリフロジンの費用効果

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(横浜市立大学プレスリリースより)

 ダパグリフロジン群では薬剤費および平均余命の延長による疾病管理費などが増加したが、腎代替療法関連費用の低減および心不全入院の減少で部分的に相殺された。

 サブグループ解析の結果、ダパグリフロジン群における高い費用効果が一貫して認められ、ICERは非糖尿病かつUACR低値例で最も高く、非糖尿病かつUACR高値例で最も低かった。また非糖尿病例と比べ糖尿病例は費用増加幅が大きく、この差はUACR低値例で大きかった。

 以上の結果を踏まえ、田村氏らは「日本をはじめ複数の国において、ダパグリフロジンはより広範なCKD患者に対する費用効果の高い治療選択肢となりうることが示された」と結論。「一般に早期CKD患者の管理はプライマリケア医に委ねられており、ダパグリフロジンの早期導入はCKD進行による医療財政への負担を軽減する上で重要である」と付言している。

服部美咲