炎症性腸疾患(IBD)のうち、6歳未満で発症し診断されたものを超早期発症型炎症性腸疾患(VEO-IBD)という。先進国に多いとされ、日本では2011~16年に年間約40例の報告があり、今後増加すると考えられている。典型的なIBDに比べ腹痛が目立たず、乳幼児に対する大腸内視鏡検査のハードルの高さもあり診断が遅れるケースも少なくない。第127回日本小児科学会(4月19~21日)で埼玉県立小児医療センター消化器・肝臓科医長の南部隆亮氏は、VEO-IBD患者にインターロイキン(IL)-12/23阻害薬ウステキヌマブを継続投与した自験例を紹介。VEO-IBD診療のポイントを解説した。(関連記事「ウステキヌマブ、潰瘍性大腸炎の長期成績は」)
1割は単一遺伝子異常により発症
VEO-IBDの症状は多様だが、成長障害が見られるなど典型的なIBDとは異なる臨床像を呈する場合が多い。病型は大腸単独型が多く、内視鏡検査や生検所見で診断が確定できないIBD-unclassified(IBDU)の割合は学童期の小児IBDより多い。
VEO-IBDの約10~15%は、単一遺伝子異常によって発症するMonogenic IBDとの報告がある。南部氏らが2000~20年に発表された研究を対象に行ったシステマチックレビューでは、Monogenic IBD例は2歳未満での発症が多く、非典型的な感染症44.7%を含む腸管外合併症が76.0%に上った。小児IBD例と比べ難治例が多く、27.1%が手術、32.9%が生物学的製剤投与、23.1%が骨髄移植を必要としていた(Clin Gastroenterol Hepatol 2022; 4: e653-e663)。
Monogenic IBDの原因遺伝子は80種に上り、そのうち8割以上が原発性免疫不全症候群の原因遺伝子と重複するが(Front Pediatr 2021; 8: 618918)、日本で保険適用されている遺伝子検査は17種にとどまっている。同氏は「Monogenic IBDは原因遺伝子によって治療法が異なるため、遺伝子検査で確定診断を行うことが重要だ」と指摘。その上で、「既に単一遺伝子疾患を罹患している場合、IBDを合併する可能性があるので注意が必要だ」と述べた。
バイオ、JAKで臨床試験が進行中
現在、小児IBDに適応を有する生物学的製剤はTNFα阻害薬のインフリキシマブとアダムリマブの2剤のみで、α4β7インテグリン阻害薬ベドリズマブ、ウステキヌマブ、JAK阻害薬のトファシチニブ、ウパダシチニブで臨床試験が進行中である。
日本人の小児潰瘍性大腸炎(UC)患者48例に対するベドリズマブの有効性と安全性を検討した多施設後ろ向き研究では、同薬投与後54週時の寛解維持率は65.8%であった(J Gastroenterol Hepatol 2023; 38: 1107-1115)。また海外の多施設前向き研究では、VEO-IBD患者142例に対してベドリズマブ投与が14週時の寛解導入について良好な安全性と有効性を示した(Lancet Gastroenterol Hepatol 2023; 8: 31-42)。
こうしたデータを踏まえ、南部氏はVEO-IBD患者8例(年齢中央値4.5歳、女児3例)にウステキヌマブを投与した自験例について報告。初回は中央値で同薬8mg/kgを、維持期は中央値で2.4mg/kgを投与したところ、ステロイドフリー臨床的寛解(SFCR)率は26週時、52週時でいずれも50%、104週時で88%、臨床的寛解(CR)率は8週時、26週時、52週時でそれぞれ38%、63%、75%だった(Inflamm Bowel Dis 2024年4月8日オンライン版)。この結果について、同氏は「VEO-IBD患者に対するウステキヌマブの投与継続により高い有効性が期待できる」と指摘した。
最後に、同氏は「VEO-IBD診療に当たる際は、Monogenic IBDに留意する必要がある。腸管合併症がないMonogenic IBD例の増加も見込まれる」と述べた上で、「近年、IBDの新規治療薬が次々と登場しており、今後はVEO-IBDでも有用な選択肢が増えることが期待される」と展望した。
(服部美咲)