中国・University of Hong Kong/PowerHealth Research InstituteのOscar H. I. Chou氏らは、2型糖尿病患者における肝細胞がん(HCC)の新規発症リスクに対するSGLT2阻害薬とDPP-4阻害薬の予防効果を後ろ向きコホート研究で検討。その結果、HCC発症リスクはDPP-4阻害薬群と比べてSGLT2阻害薬群で有意に低く、予防効果は肝硬変または進行した肝線維化、B型肝炎ウイルス(HBV)感染、C型肝炎ウイルス(HCV)感染の患者でも維持されていたJ Natl Compr Canc Netw(2024; 22: e237118)に発表した(関連記事「SGLT2阻害薬の肝機能保護効果を確認」)。

発症リスクが58%低下、がん関連死と全死亡は70%低下 

 Chou氏らは香港の医療データベースClinical Data Analysis and Reporting System(CDARS)から、2015年1月1日~20年12月31日にSGLT2阻害薬またはDPP-4阻害薬を1週間以上にわたり投与された18歳以上の2型糖尿病患者を特定。傾向スコアマッチングにより1:1で選出したSGLT2阻害薬群とDPP-4阻害薬群(各群2万2,154例、平均年齢63.1歳、男性59%)を解析に組み入れ、死亡または2020年12月31日まで追跡した。主要評価項目はHCC新規発症とした。

 24万269人・年の追跡期間におけるHCC新規発症は166例(DPP-4阻害薬群130例、SGLT2阻害薬群36例)だった。解析の結果、1,000人・年当たりの発生率は、HCC新規発症(DPP-4阻害薬群1.10、95%CI 0.92~1.32 vs. SGLT2阻害薬群0.29、同0.21~0.40)、がん関連死(同5.91、5.47~6.36 vs. 1.06、0.88~1.25)、全死亡(同23.59、22.71~24.48 vs. 4.98、4.59~5.39)のいずれもSGLT2阻害薬群で低かった

 多変量調整後のCox比例ハザード回帰モデルによる解析の結果、HCC発症リスクはDPP-4阻害薬群に対しSGLT2阻害薬群で有意に58%低かった〔ハザード比(HR)0.42、95%CI 0.28~0.79、P=0.0004〕。また、がん関連死(同0.31、0.19~0.41)、全死亡(同0.30、0.26~0.41)のリスクもSGLT2阻害薬群で有意に低かった(全てP<0.0001)。

性、年齢、肝硬変、HBV/HCV感染、MAFLDを問わず 

 サブグループ解析では、SGLT2阻害薬による有意なHCC発症リスク低下効果は、肝硬変または進行した肝線維化(HR 0.12、95%CI 0.04~0.41)、HBV感染(同0.32、0.17~0.59)、HCV感染(同0.41、0.22~0.80)を合併する患者でも維持されていた(全てP<0.001)。さらに、この効果は性、年齢、HBV感染期間、肝硬変または肝線維化の重症度や、HBe抗原セロコンバージョン、代謝性の肝疾患であるMAFLD〔非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)の代用語〕、がんの有無を問わず認められた。

 以上の結果から、Chou氏らは「DPP-4阻害薬と比べてSGLT2阻害薬では、肝硬変または進行した肝線維化、HBV感染、HCV感染合併の有無にかかわらず2型糖尿病患者のHCC新規発症リスクを低下させた」と結論。ただし、「DPP-4阻害薬の使用によりHCC発症リスクが上昇すると解釈すべきではない。DPP-4阻害薬自体はHCC発症予防に有用な可能性がある」と付言している。また、今回の後ろ向きコホート研究ではSGLT2阻害薬の使用とHCCリスク低下との因果関係については証明できないため、今後ランダム化比較試験で確認する必要があるとしている。

(太田敦子)