閉経後の女性では更年期症状、特にホットフラッシュや寝汗などの血管運動神経症状(Vasomotor Symptoms;VMS)に悩まされる者が少なくない。米・University of Virginia HealthのJoAnn V. Pinkerton氏らは、中等度~重度のVMSに対する選択的ニューロキニン(NK)1/3受容体拮抗薬elinzanetantの有効性と安全性について、第Ⅲ相二重盲検プラセボ対照ランダム化比較試験(RCT)OASIS1、2を行い検証。その結果、プラセボ群と比べelinzanetant群でVMSの頻度が有意に減少し、重症度も有意に改善したJAMA2024年8月22日オンライン版)に報告した。(関連記事「更年期障害の女性、多くが受診せず」)

北米、欧州、イスラエルで登録した400例が対象

 閉経後女性の多くはさまざまな更年期症状を経験し、頻度はVMSで80%、睡眠障害で60%と推定される。更年期症状は日常生活への支障、生産性の低下を介してQOLに悪影響を及ぼし、心血管イベントリスクの上昇、抑うつ症状や認知機能低下などの有害転帰とも関連するが、現時点で有効性が確立された治療はない。閉経移行期にエストロゲンレベルが低下すると、視床下部に存在し体温調節に重要な役割を果たすKNDyニューロンの肥大と機能亢進が生じてNK1/3受容体、NKBやサブスタンスPを含む神経伝達物質の発現が上昇、末梢血管拡張や原発性不眠症を誘発すると考えられ、昨年(2023年)に欧米でVMS治療薬として承認された非ホルモン性NK3受容体拮抗薬fezolinetantが注目されている(関連記事「更年期症状の新規治療薬に熱い期待」)。

 一方、elinzanetantはNK1/3受容体の両方を標的としており、第Ⅱb相試験SWITCH-1においてプラセボと比べVMSの頻度および重症度の有意な改善が示されている(Menopause 2023; 30: 239-246)。Pinkerton氏らは今回、中等度~重度のVMSに対するelinzanetant の有効性と安全性を検討する第Ⅲ相試験としてOASIS1、2を実施した。対象は40~65歳の閉経後(自然または手術)女性でスクリーニング期間に中等度~重度のVMS症状を50回/週以上経験した患者。OASIS1では2021年8月27日~23年11月27日に米国、欧州、イスラエルの77施設で登録した400例を、OASIS2では2021年10月29日~23年10月10日にカナダ、米国、欧州の77施設で登録した400例をelinzanetant 120mg/日を投与する群とプラセボ群に1:1でランダムに割り付けて12週間投与し、その後は全例にelinzanetant 120mg/日を14週間投与、さらに4週間追跡した。

 主要評価項目は、4週時および12週時におけるVMSの頻度と重症度のベースラインからの平均変化量とし、患者評価によるホットフラッシュ電子日誌により評価。副次評価項目は、12週時における睡眠障害に関する患者報告アウトカムPROMIS SD SF 8bの総Tスコア(範囲28.9~76.5点:高スコアほど障害が強い)および閉経期特有のQOLに関する質問票MENQOLの総スコア(同1~8点:高スコアほどQOLが低い)のベースラインからの平均変化量などとした。

睡眠障害、QOLも有意に改善

 解析対象は、OASIS1のelinzanetant群が199例(平均年齢54.6±4.9歳、子宮摘出42.2%、卵巣摘出25.6%)、プラセボ群が197例(同54.5±4.9歳、41.6%、24.9%)、OASIS2がそれぞれ200例(同54.8±5.0歳、34.5%、12.0%)、200例(同54.4±4.5歳、37.0%、20.0%)。ベースライン時の中等度~重度VMSの平均日数は13.4±6.6日、14.3±13.9日、14.7±11.1日、16.2±11.2日、VMS重症度(0~3)は2.6±0.2、2.5±0.2、2.5±0.2、2.5±0.2だった。

 4週時におけるVMS頻度のベースラインからの平均変化量は、OASIS1ではプラセボ群の-4.4±6.7と比べ、elinzanetant群では-7.5±5.8と有意に大きかった〔プラセボ群に対する変化量の最小二乗平均(LSM)-3.3、95%CI -4.5~2.1〕。12週時においても有意差が維持された(平均変化量-5.5±10.2 vs. -8.7±6.7、LSM -2.5、95%CI -3.4~1.6、全てP<0.001)。OASIS2においても同様の傾向が見られた〔4週時:同-6.1±8.9 vs. -8.6±9.2、-3.0、−4.4~−1.7、12週時:同-7.2±8.5 vs. -10.0±10.3、−3.2、−4.6~−1.9、全てP<0.001〕。

 VMS重症度のベースラインからの変化については、elinzanetant群のプラセボ群に対する変化量のLSMは、4週時がOASIS 1で-0.3(95%CI -0.4~-0.2)、OASIS 2で-0.2(同-0.3~-0.1)、 12週時がそれぞれ-0.4(同-0.5~-0.3)、-0.3(同-0.4~-0.1)と、いずれも有意な改善が認められた(全てP<0.001)。その他、睡眠障害と更年期関連QOLに関してもelinzanetant群で有意な改善が示された。

 安全性に関して、有害事象は12週のプラセボ対照期間中にOASIS1ではelinzanetant群の51.3%、プラセボ群の48.5%に、OASIS2ではそれぞれ44.3%、38.2%に発生したが、大半は軽度~中等度で重篤例は少なかった。elinzanetant群で多かったものは頭痛と疲労で、NK3受容体拮抗薬で報告されている肝毒性は認められなかった。

 以上の結果を踏まえ、Pinkerton氏らは「中等度~重度の閉経後VMS患者を対象とした2件の第Ⅲ相試験において、elinzanetantはVMSの頻度と重症度を有意に改善し、安全性プロファイルも良好であった」と結論している。

編集部・関根雄人