治療・予防

新型コロナ変異株の特性以外にも問題が―インド感染爆発
~邦人のチャーター便帰国想定も~ 濱田篤郎・東京医科大学特任教授

 新型コロナの患者が急増し、多くの死者が出ているインド。多くの日本人が滞在しており、在インド大使館には既に多数の在留邦人が新型コロナに感染したと報告されている。新たな変異ウイルスも報告されており、日本への影響も懸念されている。

 「地域大国であり、製薬産業も発展しているインドだが、医療機関間の格差が大きく、社会全体の医療水準は決して高くはない。今回の大流行と死者の増加は、患者急増により昨年の欧州のように医療崩壊が起きた可能性が高いのではないか」。長年渡航者医療や海外居住者の健康管理に携わってきた東京医科大学病院(東京都新宿区)の濱田篤郎特任教授はこう推測する。

 ◇庶民の病院、設備・能力に問題

 現地からは複数の遺伝子変異がある新たな型が報告されている。この「インド株」と呼ばれる変異ウイルスについて、濱田教授は「一つの変異が感染力を高め、もう一つが再感染やワクチンの効果を下げる免疫逃避性を高めるといわれている。ただ、現在の情報では感染力は高いようだが、重症化させる傾向は認められていない。また、英国株や南アフリカ株と呼ばれる別の変異ウイルスの感染も報告されていることもあって、これら感染力が高いウイルスが拡大して患者が急増し、医療機関が受け入れ切れないために十分な治療を受けられず、患者の死亡が増えた可能性が高い」と話す。

インド国内の治療施設の様子(5月11日撮影、AFP=時事)

インド国内の治療施設の様子(5月11日撮影、AFP=時事)

 現地からの報道では、「一つのベッドに2人の患者を寝かせている」「病院周囲の路上に横たわった患者が酸素吸入を受けている」など、悲惨な状況が報じられている。2018年に現地の医療機関を視察した経験から、濱田教授は「富裕層を対象にし、日本人も利用する一部医療機関は先進国並みの水準だが、一般市民が利用できる国立病院は医療設備や受け入れ能力にも問題が多い。実際、首都デリーの国立病院の救命救急受付には、日常的に100人以上の受診希望者が並んでいたほど。現在のような緊急事態では、もっとひどいことになっても不思議はない」と分析している。

 ◇帰国の壁は72時間PCR証明

 もともと高温多湿な気候の地域が広く、人口密度が高いインドでは、19世紀のペストや20世紀のスペイン風邪(インフルエンザ)など、感染症が流行すると多くの犠牲を出すことが多い。また、宗教的理由によるガンジス川での沐浴(もくよく)など、公衆衛生意識も日本や欧米とは異なる面がある。このため企業の駐在員などとして現地に長期滞在する日本人に対して、「派遣前には8種類前後のワクチンの接種を勧め、デング熱対策として蚊(カ)に刺されないようにするなど生活上の注意も念入りに伝えている」と濱田教授は話す。

中国・武漢から羽田空港に到着、ストレッチャーで運ばれる乗客(昨年1月31日、羽田空港で)

中国・武漢から羽田空港に到着、ストレッチャーで運ばれる乗客(昨年1月31日、羽田空港で)

 このような状況のため、現地で感染した場合に日本の水準から見れば十分な治療を受けられない可能性がある。とは言え、帰国を希望する場合も問題が残る。一つは日本への入国の72時間以内にPCR検査で新型コロナに感染していないことを証明する書類が必要とされていることだ。濱田教授は「検査を受けようにも、現地の医療機関の検査能力はパンク。しかもコロナ患者であふれているので、検査を受ける際の感染リスクも無視できない。この結果、検査を受けられなかったり、受けられても結果が出るまで72時間以上かかったりすることもあったという」と話す。

 さらに、検査の精度にも問題がある。現地の検査で感染していないとされて日本に入国が認められた人の中で、入国時の検査で感染が判明した事例が一定数報告されている。濱田教授は「インド国内では複数の変異ウイルスが流行していて、日本からみれば水際対策が重要になる。帰国後の自主的な健康監視では効果に限界があると考えて、これ以上日本人患者が増える前に、希望者を募ってチャーター機で一度に帰国させ、特定の宿泊施設で2週間の隔離をすることも想定しておいた方がいい」と提言している。(喜多壮太郎)




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