治療・予防

治療薬の選択肢広がる―片頭痛
~上手に使ってセルフケアを~

 頭が痛くて寝込んだり、吐いたりすることもある片頭痛。日常生活に支障があっても「たかが頭痛」と、周囲だけでなく患者本人も軽視しがちで、医療機関の受診率は低い。市販の鎮痛薬で済ませている人は少なくないが、近年は治療薬の開発が進み、専門医による頭痛外来も増えてきた。痛みやつらさを一人で抱え込むのではなく、適切な治療を通して症状のコントロールにつなげたい。

症状に合わせて薬を使い分ける

症状に合わせて薬を使い分ける

 ◇「サボり病」と言われたことも

 頭痛には一次性頭痛と二次性頭痛があり、くも膜下出血脳腫瘍など他の病気により引き起こされる二次性頭痛に対して、原因となる病気がなくても起こるのが一次性頭痛(慢性頭痛)だ。片頭痛緊張型頭痛群発頭痛と並ぶ三大慢性頭痛の一つで、国内の患者数は推計840万人。「ズキン、ズキン」と心臓の拍動に合わせて痛みを感じ、吐き気嘔吐(おうと)を伴ったり、光や音に過敏になったりするのが片頭痛の特徴だ。

 東京都在住の50代男性は、物心つく頃から片頭痛に苦しんできた。「子どもの頃は1週間に1回ぐらい、大体夕方からズキンズキンと痛みが出た。吐き気がして何もできないから寝るしかない。病院に行っても、『単なる頭痛だから心配ない』とか、『貧血だから鉄分を取れ』とか言われ、市販の痛み止めを飲むだけ。夕方から痛くなるから、医者には勉強や宿題をしたくないだけの『サボり病』と言われたこともある」と振り返る。

 小学校の高学年になってから大学病院で脳波や血液を検査したが原因は分からず、きちんと「片頭痛」と診断されたのは高校卒業後、コンピューター断層撮影(CT)と磁気共鳴画像装置(MRI)による検査で脳には異常がないことがはっきりしてからだった。

 ◇複数の薬を使い分け

 その後も鎮痛剤で痛みをしのぐしかなかったが、頭痛のメカニズムに直接働き掛ける片頭痛治療薬として開発された「トリプタン」が2000年から日本でも使えるようになった。今は、近所の頭痛外来に通ってトリプタン、鎮痛薬、漢方薬(五苓散=ごれいさん)の処方を受け、頭痛の程度に合わせて使い分けながらコントロールしている。「片頭痛の発作が出るのは週に3、4回。そのうちトリプタンを飲むのが1、2回。吐いてしまうような時は点鼻薬を使います。朝起きた時に痛くなり、痛みで目が覚めることもあります。鎮痛剤で治まるか、トリプタンを飲まないとだめか感覚で分かる。緊張型頭痛の時もあるようです」

 出張先で激しい痛みが出て、病院に駆け込んで点滴や酸素吸入などの処置を受けたこともある。「いつ(痛みの発作が)出るか分からないのが一番嫌ですよね」と話すが、最近では職場の理解も得られるようになってきたという。「しょっちゅう頭が痛いと言っているから。片頭痛になって長いので、頭が痛くてもここまではできる、これ以上は無理、というのは分かる。症状は重い方だと思うけれど、付き合っていくしかない」とした上で、今後の片頭痛の病態解明と根治薬の開発に期待を寄せる。

坂井文彦医師

坂井文彦医師

 ◇新しい治療薬

 片頭痛の発症メカニズムは完全には分かっていないが、頭蓋内の血管が拡張し、炎症が発生することで痛みを引き起こすと考えられている。「片頭痛の特効薬」として登場したトリプタンは、神経伝達物質の一つで血管の拡張と収縮に関わるセロトニンの作用に働き掛けて血管の拡張と炎症を鎮める。中等症~重症の片頭痛に使用が推奨され、現在、5種類のトリプタン製剤が、症状などに応じて使い分けられている。ただ、トリプタンは血管を収縮させる作用があるため、心筋梗塞や脳梗塞のリスクのある人、高血圧の人などは使えない。

 今年6月に発売された「レイボー(一般名:ラスミジタン)」は、頭痛発作が起きた時ときに服用する急性期治療薬としては20年ぶりの新薬。片頭痛発作を起こす神経伝達物質の放出を抑えて症状を和らげるが、血管収縮作用がないので心血管疾患のリスクがある人も服用できる。

 臨床試験に関わった埼玉精神神経センター・埼玉国際頭痛センター長の坂井文彦医師は「トリプタンの効きが必ずしも十分でなかった人やトリプタンが使えなかった人も使える。使える範囲が非常に増えた」と説明。ただ、副作用として、めまいや眠気が表れることがあるという。

 昨年は、血管を拡張させたり炎症を起こしたりする物質(CGRP)をブロックすることで痛みの発作が出るのを抑える片頭痛予防薬も複数の製薬会社から相次いで発売された。今年5月には自己注射できるものも登場。坂井医師は「薬の選択肢がかなり増え、患者と相談しながら治療を計画していけるようになった」と話す。

 ◇自分の頭痛のタイプを知る

 問題は受診率の低さだ。「頭痛の診療ガイドライン2021」によると、片頭痛患者の約7割は医療機関を受診したことがなく、約5割は市販薬のみを服用している。坂井医師は「痛みが過ぎ去ったから大丈夫、と受診しない。どこに受診しに行けばいいか分からないという問題もある」として啓発の必要性を強調する。

 片頭痛は20~40代の働き盛りに多く、特に30代女性では5人に1人とされる。頭痛が始まると4~72時間続き、体を動かすと痛みが悪化するため日常生活に支障を来す。これに対して、慢性頭痛で最も多い緊張型頭痛は、頭が重く感じられ、締め付けられるように痛む。首の周りの筋肉の凝りや精神的ストレスなどが原因で、ストレッチ体操などにより改善が期待できる。頭痛のタイプによって対処法や治療法が異なるため、自分の頭痛を知ることが大事だ。

 「片頭痛緊張型頭痛は混在していることが多く、緊張型頭痛の自己診断が極めて重要です。片頭痛との識別に自信のある方は多くありません。私の外来で片頭痛が多いと訴える方には、まず筋硬結(筋肉のしこり)の自己触診、マッサージやストレッチ体操で改善するかどうかという緊張型頭痛の自己診断法を知っていただいています。片頭痛は動くと痛みがひどくなるのが特徴なので、少し体操をすると自己診断できます」と坂井医師。

 日本頭痛学会は各地の頭痛専門医をホームページに掲載している。受診して正確な診断と適切な治療につなげるため、坂井医師は頭痛が出たときの状況を「頭痛ダイアリー」として記録することを勧める。「これからはセルフケアが大事になっていくと思う。いろんないい薬が出てきたので、上手に使って片頭痛をコントロールしてほしい」と話している。(編集委員・中村正子)

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