治療・予防

高齢者の「大敵」肺炎
~死亡者の98%が65歳以上~

 新型コロナウイルス感染症による死亡で、肺炎が注目された。コロナ禍以前から肺炎は高齢者にとって大きな問題となってきた。肺炎の死亡者のほとんどが65歳以上の高齢者だからだ。肺炎を引き起こす病原菌で最も多いのは肺炎球菌で、専門医師はワクチン接種を勧めている。

国立病院機構東京病院における症例

国立病院機構東京病院における症例

 2021年の総務省統計局の調査によると、65歳を超えると肺炎による死亡率は急激に上昇し、肺炎の死亡者の約98%を65歳以上が占める。

 国立病院機構東京病院の永井英明・感染症科部長は「肺炎は治療薬の進歩と医療技術の向上により、かなり良く治療できるようになった。しかし、高齢者にとって肺炎はいまだに怖い病気であり、高齢者の大敵だ」と強調する。

 高齢者は慢性の心臓疾患や呼吸器疾患、腎不全、肝機能障害、糖尿病などの基礎疾患を持つことが多い。「このため、肺炎などの感染症にかかりやすく、症状も重くなる傾向がある」と話す。

 ◇原因の第1位は肺炎球菌

 国内の研究によると、肺炎で最も多い病原菌は肺炎球菌が約19%と第1位。以下、インフルエンザ菌(ウイルスではない)、黄色ブドウ球菌、肺炎棹菌(かんきん)などと続く。肺炎球菌がトップという傾向は幾つかの国でも変わらない。

染色された肺炎球菌=永井英明部長撮影

染色された肺炎球菌=永井英明部長撮影

 ウイルス自体による肺炎は多くはない。ただ、インフルエンザウイルスに感染すると、気管・気管支のバリアー機能が壊され、内側の表面に肺炎球菌がくっつきやすくなる。季節性インフルエンザの流行時に肺炎で入院した患者の原因菌としては、肺炎球菌が最も多かったという日本の医療機関の報告もある。

 肺炎球菌という存在を知っている人は多くはない。小児の多くは鼻や咽頭にこの菌を持っており、市中における感染に無視できない役割を果たしている。小児でもしばしば中耳炎や肺炎を発症することがある。問題は侵襲性肺炎球菌感染症(IPD)だ。髄膜炎や菌血症を伴う肺炎敗血症など重篤な状態を招き、死亡したり、後遺症で苦しんだりするリスクが大きい。

肺炎を予防するために

肺炎を予防するために

 ◇予防はまずマスク

 他の感染症に限らず、肺炎も予防が大切だ。まず「マスク・手洗い・うがい」だ。これは新型コロナインフルエンザと全く変わらない。

「他の事は忘れたとしても、マスクを着けるのは忘れないでください」

 永井部長は受診する患者に、必ずこう指導する。高齢者は若い年齢層に比べてせき込むことが少なくなる。せきは気道に入ったほこりや異物を外に出す防衛反応で、高齢者では低下する。

 米国のある州の公立学校での新型コロナに関する対策に関し、規制を緩めなかった学校の方が発症頻度が低下したとの論文が発表されている。永井部長は「新型コロナが5類に移行した後、日常生活で徹底して行うことは難しいだろう。めりはりを付けてほしい」と言う。

 マスクの着用などに加えて口腔(こうくう)ケアも大事だ。歯磨きで口の中を清潔に保つとともに、食道に入るはずの飲食物や唾液が気管に入ってしまう誤嚥(ごえん)を防ぐ。食事中にむせるので、家族や周囲の人はすぐに分かる。

 ◇ワクチン接種を推奨

 永井部長は予防のためのワクチン接種を推奨する。「『自分は元気だから、ワクチン接種は必要ない』と考える高齢者は少なくない」と指摘した上で、感染した場合のダメージは大きく、医療機関の負担とともに社会的医療費の増大を招く、と指摘する。もちろん、メリットとともに副反応などのデメリットを冷静に判断するための議論は欠かせない。

 予防接種・ワクチン定期接種は65歳時で、2019~2023年度の限定的な施策で70~100歳まで5歳刻みで定期接種の機会が設けられた。「感染症にかかれば、病気による本人の負担は大きい。受診や入院のリスクが減少することは医療関係者の負荷軽減と医療費削減につながる」。24年度以降の定期接種方針は同年4月にも決まるとされ、永井部長は行方を注視している。(鈴木豊)

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