温室効果ガス削減へ
~ヘルスケア産業も挑戦―アストラゼネカ~
「気候変動関連死」が注目され始めた。異常気象による洪水や干ばつよる被害、猛暑がもたらす熱中症などの死亡者が増加しているからだ。世界や日本の企業でも、温室効果ガス(CO2)削減を目指す機運が高まっている。ヘルスケア産業の分野で、取り組みを進めているバイオ・医薬品企業アストラゼネカの関係者に話を聞いた。
木戸口結子コーポレートアフェアーズ本部長
◇気候変動関連死がコロナ上回る
木戸口結子コーポレートアフェアーズ本部長は「なぜ、あなたの会社がそんな事をやるのですか?」と尋ねられることが多いという。
2024年の夏は猛暑が続き、熱中症による救急搬送者数は急増した。恐らく熱中症疑いの死亡者数は23年を上回るとみられる。世界保健機関(WHO)のデータによれば、新型コロナウイルス感染症の2021年の死亡者数は約350万人。一方、国連などは推計で、気候変動関連死が年間で約1300万人に上ると予測 しており、新型コロナを大幅に超えることになる。
木戸口本部長は「気候変動は熱中症や蚊などを媒介とした感染症、大気汚染など、人々の健康に大きな影響を与える。21世紀の公衆衛生における最大の危機だ」と話す。
◇航空産業上回るCO2排出量
国連は気候変動について「地球温暖化を超える沸騰化だ」と警鐘を鳴らす。国内の全産業におけるCO2の排出量の割合は、健康・医療関連分野は約5%だ。これには製薬企業による治療薬の開発や流通、医療機関の活動などが含まれる。あまり知られていないが、この数字は航空産業の2%台を上回るという。
豪雪地帯で用いるEVの営業車
◇営業車をEVに切り替え
「カーボンゼロ」を掲げるアストラゼネカの取り組みは3段階に分かれる。第1段階は、1100台を超える営業車のEV車への切り替えだ。約60%がEV車となっている。第2段階は同社の国内拠点施設でのCO2削減。21年から22年にかけて、東京支社と大阪本社の電力を再生可能エネルギーに切り替えた。米原工場では太陽光パネルを設置し、再エネ電力の割合を約100%に高めたという。
アストラゼネカの東京支社(東京都港区)はJR田町駅に近い高層ビルにオフィスを構える。このビル全体の電力が再生可能エネルギーで賄われているわけではない。木戸口本部長によれば、「ビルの管理会社と交渉し、私たちのオフィスがあるフロアを再生可能エネルギーによる電力に替えてもらった」 と言う。
新幹線での出張で温室効果ガス削減
◇新幹線出張にCO2削減の仕組み
第3段階は同社の事業活動に関連する他企業との連携だ。木戸口本部長は「恐らく、これが最も難しいだろう」とした上で、具体的な取り組みを説明する。
大阪に本社を置くアストラゼネカの社員が東海道新幹線、山陽新幹線を利用して出張することは多い。同社も法人契約を結んでおり、「これをCO2排出量削減につなげることができないか」と考えたという。出張の人数と距離、それに伴うCO2排出量を算定。その分をJR東海、JR西日本とCO2フリーの電気を電力会社から購入してもらい、費用をアストラゼネカが負担する。この仕組みでCO2を削減できるエリアは東海道・山陽管内(東京~博多)で、年間に約276トンのCO2減少につながる効果が期待できるという。
JR2社と法人契約を結んでいる企業は約4万社と多い。木戸口本部長は「アストラゼネカの取り組みに賛同してくれる企業の和を広げたい」と話す。(鈴木豊)
(2024/09/03 05:00)
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