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がん治療と仕事は両立できる
「がん専門医」中川恵一氏の体験記〔3〕

 これまで、少子化が進む一方で移民をほとんど受け入れてこなかった日本においては、高齢になっても働く必要があります。実際、65歳以上の高齢者が全就労人口に占める割合はドイツでは2%、フランスでは1%程度ですが、日本では12%にも達します。そして、がんは細胞の老化と言える病気ですから、高齢化が進んだ日本では、働く人にがんが多発することになります。

手術直後から現場に復帰した中川恵一准教授

 こうなると、「がんを働きながら治す」ために一番大切なことは早期に発見することです。これまで私自身の膀胱(ぼうこう)がんを早期発見して、東大病院で内視鏡手術を受けたことを報告しました。自分で超音波検査をして自覚症状がない膀胱がんを早期に見つけることができたのは、正直、「医者の役得」であり、一般化はできませんが。

 ◇4泊入院、大みそかに退院

 私の場合、結果的に12月27日に入院して、翌日の朝に手術を受け、4泊の入院で大みそかに退院できました。27日は午前、午後とも外来診察をして、29日からは自分の部屋で雑務もこなしましたから、「治療と仕事の両立」を文字通り、行いました。もちろん、正月明けからは平常通りに仕事をしています。

 もし発見が遅れて、がんが膀胱の筋肉層にまで及んだいたら、膀胱全摘手術を受けることになります。その場合には、入院期間は3~4週間程度になり、退院後もすぐにフルタイムの勤務ができない事例も少なくありません。

多方向から多くの放射線を照射して腫瘍部分だけにダメージを与える放射線治療

 ◇早期がんなら通院で放射線治療

 膀胱がんに限らず、食道がんや胃がん、大腸がんの内視鏡手術でも入院期間は1週間程度で、薬物療法は不要です。早期がんに対する放射線治療ではほとんどが通院だけで済みます。実際、東大病院の場合、肺がんは4回、前立腺がんの場合は5回の通院で済み、1回の照射時間はたった90秒にすぎません。もちろん、仕事の合間に受けることができます。

 たとえ進行がんであっても、時短勤務などのフレキシブルな対応によって、治療と就労の両立は十分に可能です。それでも、両立を実現する最も大切なポイントは早期発見なのです。

 このように、がんで命を落とさないための秘訣(ひけつ)は「がんを知る」ことです。がん治療も一種の「情報戦」と言えますが、がんに限らず、日本人は「ヘルス」と呼ばれる健康や医療分野についての「リテラシー」(理解力)に欠けると指摘されています。

医療や健康に関する理解力の国別比較で日本は最下位

 ◇低い日本人のヘルスリテラシー

 ヘルスリテラシーについての国際比較調査でも、「医師から言われたことを理解するのは難しい」と答えた日本人は44%に上りましたが、EUの平均値は15%、ヘルスリテラシー先進国のオランダでは9%にすぎませんでした。同様に、「病気の治療に関する情報を見つけるのは難しい」と答えた比率は、日本が53%、EU平均で27%、オランダだけなら12%と、大きな差がついていました。

 国別のヘルスリテラシーの度合いを50点満点で評価した数値でも、オランダが37.1点で調査対象国中トップでした。アジアでは保健教育が充実している台湾が34.4点と最も高く、日本は25.3点。ミャンマーの31.3点、ベトナムの29.6点より低く、最下位に甘んじています。

 このヘルスリテラシーが低い人ほど、病気や治療についての知識も少なく、がん検診や予防接種などを利用しない傾向があります。症状に気付きにくく、死亡率も高いことが分かっていますから、この調査結果は見過ごせません。自らのがん体験を踏まえて、これからも日本人のヘルスリテラシーを高める活動にまい進していきたいと思います。

【略歴】中川恵一氏(なかがわ・けいいち)
東京大学医学部准教授。同付属病院放射線治療部門長。1960年生まれ。85年東京大学医学部卒業、その後同部専任講師などを経て現職。厚生労働省「がん対策推進企業アクション」議長なども務める。「最強最高のがん知識」「がんの時代」などがんに関する著書多数。

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