「医」の最前線 「新型コロナ流行」の本質~歴史地理の視点で読み解く~

既存の5類感染症以上の対策を
~分類見直し後に―新型コロナ~ (濱田篤郎・東京医科大学病院渡航者医療センター特任教授)【第57回】

5類への引き下げを伝える電光ボード(東京都渋谷区)

5類への引き下げを伝える電光ボード(東京都渋谷区)

 ◇「他人に伝播させない対策」は法律外で残す

 この対策には、感染者の隔離や就労制限などの法律面、感染者のマスク着用などの生活面が該当します。法律面の規定は5類になるとなくなりますが、現在の新型コロナの感染力からすると、感染者は症状のある期間だけでも自宅療養することが流行拡大を抑えるためには必要になります。どうしても外出をするのならマスク着用は必須です。こうした対応を政府や自治体が「感染したときの注意事項」として、国民の皆さんに周知してほしいと思います。

 感染者の就業制限も法的にはなくなりますが、職場側としては感染者の出勤を回避しないと、職場内でクラスターの発生が起こる可能性があります。これを防ぐためには、職場が独自に欠勤規定を作成し、就業規則などに記載することが必要になるでしょう。

 高齢者やハイリスク者は感染すると重症化するため、この集団に伝播させない対策は少しでも残してほしいところです。例えば、医療機関や高齢者施設への感染者の入場制限や施設内でのマスク着用を強く促すべきです。また、公共施設や交通機関などに「マスク着用者エリア」を設けるなど、高齢者やハイリスク者を守る対策の推進を行政などにお願いしたいと思います。

 ◇「国民が感染や重症化しない対策」は支援継続を

 この対策には、マスク着用やワクチン接種などの予防対策とともに、感染した場合に受診して重症化を防ぐ対策があります。一般の人のマスク着用は個人の判断に任せるとして、高齢者やハイリスク者には、日ごろから着用を強く推奨するといった指導が必要です。

 ワクチン接種については、今後も定期的な接種が行われると予想され、その接種率向上が個人の感染予防とともに流行の拡大防止にもなります。現在は無料で行われていますが、5類移行後は国民に負担を求める可能性もあります。こうした場合、自治体などから全額ではないにしても、一部補助をしていただきたいと思います。

 感染してしまった場合、高齢者などは医療機関を受診することが重症化を予防するために欠かせません。5類になると、どの医療機関でも診療することが原則ですが、今までコロナ診療をしていない医療機関が新たに行うのはなかなか難しいでしょう。そうなると、受診や入院ができない患者が増えてくることも予想されます。こうした事態にならないように、現在行われている行政による療養支援などを少しでも継続していただければ助かります。


 新型コロナの5類への移行は既に政府の決定事項で、移行日も5月8日と決まっています。政府や自治体では医療費への支援策などが検討されているようですが、それ以外についても、既存の5類感染症以上の対策を準備していただきたいと思います。(了)


濱田特任教授

濱田特任教授

 濱田 篤郎 (はまだ あつお) 氏

 東京医科大学病院渡航者医療センター特任教授。1981年東京慈恵会医科大学卒業後、米国Case Western Reserve大学留学。東京慈恵会医科大学で熱帯医学教室講師を経て、2004年に海外勤務健康管理センターの所長代理。10年7月より東京医科大学病院渡航者医療センター教授。21年4月より現職。渡航医学に精通し、海外渡航者の健康や感染症史に関する著書多数。新著は「パンデミックを生き抜く 中世ペストに学ぶ新型コロナ対策」(朝日新聞出版)。

  • 1
  • 2

【関連記事】


「医」の最前線 「新型コロナ流行」の本質~歴史地理の視点で読み解く~