「医」の最前線 感染症・流行通信~歴史地理で読み解く最近の感染症事情~
インドやアフリカで続発する感染症
~遠い国の出来事ではない~ 東京医科大客員教授・濱田篤郎【第10回】
◇アフリカのエムポックスとマールブルグ熱
日本とアフリカの経済関係も密になってきており、日本政府主催のアフリカ開発会議や民間ベースの経済協力会議などが頻繁に開催されています。これに伴って、アフリカで事業展開する日本企業も増えていますが、そこはインド以上に感染症のリスクの高い地域です。さらに、今年は感染症の新たな流行が各地で発生しています。
一つは、アフリカ中部のコンゴ民主共和国で拡大しているエムポックス(旧名:サル痘)の流行です。これは、接触感染で皮膚に病変を生じるアフリカの風土病で、22年に欧米諸国などで世界的な流行が発生しました。その後、一時収束しましたが、昨年から新たな流行が拡大したため、世界保健機関(WHO)は今年8月中旬に「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」を宣言しています。アフリカ以外でも輸入事例が確認されていますが、患者発生はジャングル地帯に多く、急速に拡大する危険性は今のところなさそうです。
もう一つは、東アフリカのルワンダで9月から流行しているマールブルグ熱で、こちらは要注意です。この病気はエボラ出血熱に近縁のウイルスで起こり、患者の体液に接触するなどして感染します。首都キガリを中心に患者が発生し、10月中旬までに60人以上の患者が報告され、14人が死亡しました。今のところ有効性が確認されたワクチンや治療薬はありません。
ルワンダでマールブルク熱の感染者が発生した地区(州別)=米疾病対策センター(CDC)ホームページより
ルワンダと聞くと、1994年に部族紛争による大規模な虐殺が起きたことを思い浮かべる人も多いと思いますが、その後、この国はIT産業などの分野で大きく経済成長し、日本の企業も進出を始めています。こうした国の首都で致死性の感染症が発生しているわけですから、決して遠い国の出来事ではないのです。現在、現地政府やWHOによる流行制圧が進んでいますが、今後の動向を注視する必要があります。
◇グローバルサウスの危うさ
このようにグローバルサウスと呼ばれる国々は、感染症のリスクが高いだけでなく、新たな流行も続発している状況です。こうした流行には、近年の気候変動により媒介昆虫が増加していたり、経済発展の結果、郊外の開発が進み、新たな病原体に接する機会が増えたりしていることも関係しています。
グローバルサウスにはビジネスチャンスが豊富にある一方、健康面のリスクという危うさが潜んでいるのです。企業は海外進出に当たって、派遣社員に万全な予防対策を取るとともに、国民の皆さんも、そこで起きている感染症の流行を身近に感じていただきたいと思います。新型コロナのように、それが日本国内に持ち込まれ、流行する可能性もあるのですから。(了)
濱田客員教授
濱田 篤郎(はまだ・あつお)
東京医科大学病院渡航者医療センター客員教授
1981年東京慈恵会医科大学卒業後、米国Case Western Reserve大学留学。東京慈恵会医科大で熱帯医学教室講師を経て2004年海外勤務健康管理センター所長代理。10年東京医科大学病院渡航者医療センター教授。24年4月より現職。渡航医学に精通し、海外渡航者の健康や感染症史に関する著書多数。新著は「パンデミックを生き抜く 中世ペストに学ぶ新型コロナ対策」(朝日新聞出版)。
- 1
- 2
(2024/10/21 05:00)
【関連記事】