「医」の最前線 感染症・流行通信~歴史地理で読み解く最近の感染症事情~
ノロウイルスの流行が拡大中
~なぜ今シーズン増えているのか? 東京医科大客員教授・濱田篤郎【第15回】
◇頻繁な手洗いが予防の鍵
このような中で、ノロウイルスの感染をどのように予防したらいいでしょうか。
まず、感染リスクの高いカキなどの食材は、十分に加熱してから食べることです。ノロウイルスを殺滅するためには、85℃で1分間以上の加熱が必要とされています。

トイレのドアノブを触った後はしっかり手洗いを
次に、手洗いを頻回にしてください。これは、環境中のウイルスを手に付けないために有効な予防法です。ウイルスが付着していることの多い、トイレのドアノブや水を流すレバーなどを触った時は、せっけんを使ってよく洗ってください。こうした汚染されやすい場所の消毒も大切で、消毒薬には次亜塩素酸を使いましょう。このウイルスにはアルコール消毒が効きません。
飲食店や弁当屋などの従業員がノロウイルスに感染していて、食品を汚染しているケースでは、私たちの注意で防ぐことは困難です。こうした場合の対策として、事業所が食品取扱者に十分な衛生管理を提供することが求められています。症状のある従業員には作業させないのはもちろん、症状が無くても食品に触れる時は、手洗いを頻回にしたり、マスクをしたりするなどの注意が必要です。厚生労働省が刊行している大量調理施設衛生管理マニュアルには、食品取扱者の感染対策が詳しく記載されていますので、ご参照ください。
◇発病してしまったら
ノロウイルスによる胃腸炎を発病した疑いがある場合、便のウイルス抗原検査で診断できますが、この検査は乳幼児や高齢者以外は健康保険が適用されず、自費診療になります。このため、症状などからノロウイルスによる胃腸炎と診断されることが多いようです。
症状は2~3日で改善するので、安静にして水分を多めに摂取するように心掛けてください。嘔吐がひどい場合は、無理に飲まず、口を湿らす程度にしましょう。下痢止めの服用は一般に推奨されませんが、整腸剤や吐き気止めは使用しても構いません。
患者は周囲に感染を拡大させるので、同居する家族は、手洗いや室内の消毒などを十分に行ってください。また、仕事や学校は、症状が消失するまで休む必要があります。食品取扱者が感染した場合は、便からのウイルス排せつが無いことを検査で確認してから仕事に復帰するようにしてください。
ノロウイルスは感染力の大変強い病原体です。流行している時期は手洗いなどの予防に心掛け、発病してしまった場合は、周囲の人に感染を拡大させないように注意しましょう。(了)

濱田客員教授
濱田 篤郎(はまだ・あつお)
東京医科大学病院渡航者医療センター客員教授
1981年東京慈恵会医科大学卒業後、米国Case Western Reserve大学留学。東京慈恵会医科大で熱帯医学教室講師を経て2004年海外勤務健康管理センター所長代理。10年東京医科大学病院渡航者医療センター教授。24年4月より現職。渡航医学に精通し、海外渡航者の健康や感染症史に関する著書多数。新著は「パンデミックを生き抜く 中世ペストに学ぶ新型コロナ対策」(朝日新聞出版)。
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(2025/03/14 05:00)
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