こちら診察室 よくわかる乳がん最新事情

第6回 リンパ節の切除は範囲抑え、負担軽く
浸潤乳がん手術、「センチネル生検」で慎重に 東京慈恵会医科大の現場から

 ◇脇の下まで「郭清術」が行われるケースは

 センチネルリンパ節に転移がある場合は、やはり腋窩リンパ節郭清術を行うことが推奨されていました。しかし近年の臨床試験では、センチネルリンパ節に転移があっても、転移が微小な場合や転移部位が2個以下の場合は、乳腺手術後の放射線照射や薬物療法を行うことで、予後が変わらないという結果も認められ、腋窩リンパ節郭清術が行われる頻度も減ってきています。

 乳房周辺のリンパ節(出典:国立がん研究センターがん情報サービス)
 現在、腋窩リンパ節郭清術の対象は、比較的大きな転移がリンパ節にある場合▽乳房全切除術後の放射線照射を行わずにセンチネルリンパ節転移がある場合▽リンパ節周囲にまで腫瘍が広がっている場合―などに限定されます。

 郭清範囲は、乳房のリンパの流れに沿い、脇の下から鎖骨に向かってレベルⅠからⅢまであります。通常はレベルⅠ(小胸筋の外側)とレベルⅡ(小胸筋の表面と背面)を取り除き、レベルⅡの範囲内に明らかな転移がある場合はレベルⅢ(小胸筋の内側)まで取り除きます。一方、内胸リンパ節(胸骨の傍らにあるリンパ節)への転移がまれに認められますが、その郭清術は予後の改善が見込めないので行いません。

 ◇さまざまな手術、長所と短所と

 その他の手術についても説明します。遺伝性乳がんと診断されるか、その疑いがある場合、一生の間に乳がんになる確率が高いため、予防的に「リスク低減乳房切除術(RRM)」を行うケースがあることは、以前の連載記事でも紹介しました。

 例えば、片方の乳房に乳がんを発症し、遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)の原因となる遺伝子の病的バリアント(バリアントは以前、変異と呼んでいました)がある場合は、もう片方の乳房に対してのRRMが強く推奨されています。

 また、乳房全切除術に際しては、皮膚を温存する手術や、皮膚だけでなく乳頭乳輪を温存する手術もあります。後者は乳房再建手術と同時に行えば、乳房の形状がきれいに保たれる利点があります。ただし、生存率や再発率に関する大規模で系統立った研究が十分に進んでいない上、手術後に感染症、関節が硬くなる「拘縮(こうしゅく)」や知覚運動障害といった合併症の可能性もあるため、熟練した医師の下でリスクを十分に理解して行う必要があります。

 手術の方法としては、皮膚に数カ所小さな穴を開け、細いカメラや器具を挿入して行う「鏡視下手術」(内視鏡手術)もあります。乳がんの鏡視下手術は保険診療で行えますが、手術による侵襲(ダメージ)が従来とあまり変わらず手術時間も長くなるため、あまり普及していません。

 切らずに乳がんを治療する「ラジオ波焼灼(しょうしゃく)療法」や「集束超音波療法(FUS)」も低侵襲治療として、一部の施設で臨床試験が行われていますが、標準治療とはなっていません。(東京慈恵会医科大学附属葛飾医療センター外科・川瀬和美)


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