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完治に時間かかる水虫
~かゆみ消えても油断禁物~ 【第1回】

 「足の指の間がぐしゅぐしゅしてかゆい」「赤い発疹ができて、むずがゆくて我慢できない」―。「水虫」と聞くと、多くの人はこんな病状を思い浮かべるのではないでしょうか。梅雨ごろから薬局やドラックストアには、さまざまなクリームや液状の水虫薬が売られていて、患部に塗ればすぐに治ると考えている人もいるでしょう。

 しかし、この病気はそう簡単に完治しないのです。水虫は皮膚表面の角質という組織にカビ(真菌)の一種である白癬菌(はくせんきん)が繁殖して発症します。ただし、皮膚表面にただれなどを起こしたり、かゆみを感じさせたりするのは一部です。多くはかゆみも目立った外見の変化も生じさせません。かゆい部分にだけ薬を塗って一時症状が無くなっても、いずれ再発するのは見えない部分にいた白癬菌が再び繁殖してくるからです。ですから、水虫を完全に治す(根治)には、足全体の白癬菌を退治しなければなりません。

指の間のただれた部分が白癬菌の繁殖エリア

指の間のただれた部分が白癬菌の繁殖エリア

 ◇感染経路を断つ

 治療の第一歩は感染経路の確認・遮断です。白癬菌に感染した人の皮膚片(角質)は、自然に体から脱落して生え替わります。その際に落下した皮膚片を素足で踏んでしまうと、決して高くはないのですが一定の確率で、白癬菌が踏んだ人の足に住み着いてしまいます。ただ、感染力は決して強くないので、毎日寝る前によく足を洗えば感染を防ぐことができます。

 家庭内での感染を防ぐためには、スリッパや足拭きタオルの共用をやめるほか、スポーツクラブなどで入浴したりシャワーを浴びたりしても、帰宅後の就寝前にもう一度足をよく洗うことなどが効果的です。もちろん、靴下は毎日取り換えてください。

 皮膚の角質層で繁殖した白癬菌はさまざまな形になります。指の間や付け根などに赤くてじくじくした膿疱(のうほう)や水疱(すいほう)をつくる場合もあれば、白く皮膚がふやけて皮がむけ、皮膚表面をただれさせることもあります。これらの場合はかゆみを伴うケースが多いので、比較的早く発見できます。

 ◇症状さまざま、判別に難しさも

 しかし、それはあくまで一部で、かかとに繁殖してかさかさの軽いあかぎれのような状態になってしまったり、外見上は大きな変化を生じさせずに土踏まずの周囲に繁殖してしまったりすることもあります。水虫と症状が似ている掌蹠膿疱症(しょうせきのうほうしょう)や汗疱(かんぽう)という病気もあり、症状や外見だけでは水虫と判別できないこともあります。

 このため、診断には皮膚表面の角質を一部採取して、顕微鏡で白癬菌が存在するかどうかを確かめる作業が欠かせません。市販薬で治療しようとすると、この診断プロセスが欠けてしまうために、どうしても判別が不確実になってしまうのです。市販薬での治療がうまくいかず、その後に皮膚科を受診されてしまうと、白癬菌を見つけにくくなるデメリットもあります。

 水虫の治療には数カ月はかかるため、皮膚科への定期的な通院が欠かせません。お勧めはできませんが、どうしても皮膚科に通い続ける余裕がない場合でも、診断までは皮膚科医にしてもらっておきましょう。

足全体に広がった足白癬

足全体に広がった足白癬

 ◇軟こう・クリームたっぷりと

 水虫と診断がつけば、治療です。基本的には軟こうやクリームの治療薬を使います。繰り返しになりますが、かゆみのない場所にも白癬菌が繁殖している可能性が高いので、症状がなくても、かかとや土踏まず、甲を含めて足全体に塗るようにしてください。毎晩、入浴してよく足を洗い、しっかり水分を拭き取ってからが理想です。

 塗る量にも注意してください。基本は「たっぷり塗る」です。皮膚科では利き手の人さし指の先端から第1関節までの長さを1fingertip unit(1FTU)と言い、おおよそ0.5グラムとなります。両手のひらの面積を1FTU分として、塗る量を指導します。

 このような治療を、足を清潔に保ちながら数カ月続けていれば、通常の白癬菌は根絶できます。ただ、その判断も症状や外見だけではできず、やはり皮膚表面の組織を採取して顕微鏡で確かめる必要があります。

 ◇恥ずかしがらず治療を

 水虫は成人男性の病気というイメージがありますが、患者層は思春期前後の男女や若い女性にも及びます。家庭内感染だけでなく、ヨガスタジオやスポーツジムなどを利用したり、冬にブーツを長時間履いていたりすることなども感染のリスクを高めます。若者はもともと新陳代謝が活発ですし、学校の部活動やジムなどに通う機会を通じて発症するのかもしれません。

 水虫という病名を聞いて恥ずかしがる人も少なくないのですが、ほっておくと進行して「爪白癬」という別の病気を併発してしまいます。これは男性も女性も同じです。次回はその爪白癬について説明します。(了)

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木村 有太子(きむら・うたこ)
 医学博士、順天堂大学医学部皮膚科学講座講師(非常勤)。
 2003年獨協医科大卒。同年順天堂大医学部附属順天堂医院内科臨床研修医、07年同大浦安病院皮膚科助手、13年同准教授、16年独ミュンスター大病院皮膚科留学。21年より現職。
 日本皮膚科学会認定皮膚科専門医、日本美容皮膚科学会理事、日本医真菌学会評議員、日本レーザー医学会評議員。

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