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高血糖で免疫機能低下
~糖尿病と感染症~ 第7回

 前回は高齢者の話をしました。特に高齢者においては感染症予防が重要です。今回は糖尿病と感染症の話をしましょう。従来、糖尿病の血糖コントロールが不良だと感染症にかかりやすいという報告は数多くあります。現在、世界的に大きな問題となっているのは新型コロナウイルス感染症です。現時点では、糖尿病であるために、このウイルスに罹患(りかん)しやすいという明確なエビデンス(医学的証拠)はありません。しかし、皆さんもご存じのように、新型コロナウイルス感染症の重症化リスクとして、糖尿病や肥満などが挙げられていることを忘れないでください。

緊急事態宣言が解除され、にぎわう東京・銀座。ただ、新型コロナウイルス感染リスクが消えたわけではない=10月2日

 糖尿病患者が、さまざまな感染症にかかりやすかったり、感染した場合に重症化しやすかったりする理由は、血糖値が高くなると免疫の機能が低下するからです。免疫は細菌やウイルスなどから体を守る防御機構です。糖尿病で高血糖が続くと、免疫に関わる白血球や細胞の働きが悪くなり、病原体と闘えない状態になることがあります。それでは、高血糖でどのような感染症になりやすいのでしょうか? また、血糖値が幾つであれば感染しやすいのでしょうか?

 ◇長期治療で呼吸筋低下も

 一般的に、高齢者を中心に気管支炎や肺炎などの呼吸器感染症が多く見られます。

 特に、喫煙している人や喫煙歴のある人は十分な注意が必要です。免疫力の低下だけでなく、肺気腫を合併したりする場合もあるからです。また、糖尿病の治療期間が長いと、呼吸筋が低下している事も関係していると考えられます。高血糖であれば、脱水症になりやすくなります。医師から「脱水症の傾向があります。少し多めに水分を取ってください」と言われた場合は要注意です。

 嚥下(えんげ)機能の低下も関係します。脳梗塞を罹患した場合は、嚥下機能チェックも重要ですし、そうでない人はできれば、「肺年齢」などを測定してみても良いでしょう。

 ◇歯周病、ぼうこう炎も合併

 歯周病も、糖尿病の合併症の一つと考えられています。歯周病から高血糖が誘発されたり、高血糖が歯周病を誘発したりし、悪循環に陥る事があります。その意味でも、定期的な歯科受診をお勧めします。

 女性だとぼうこう炎を、男性の場合は前立腺炎を合併する事があります。既に糖尿病腎症の傾向がある人は、さらに悪化する恐れがあります。通常の検査に加え、尿の検査あるいは定期的な腹部超音波などの測定も重要です。

 現在、心臓や腎臓に良いと報告され、糖尿病患者に対して著しく使用頻度が多くなっているのがSGLT-2阻害薬です。しかし、この薬は時に、ぼうこう炎や前立腺炎を引き起こす場合があります。

 ◇多い皮膚の感染症

 糖尿病では、水虫=足白癬(はくせん)=など皮膚の感染症が多くなります。血糖コントロールが悪いと傷口が治りにくく、手術後の感染症発症につながる事もありますので、十分な対策が必要です。さらに皮膚のみならず、その下の組織などが感染する場合には筋肉に影響がある場合もあります。蜂窩織(ほうかしき)炎・蜂巣(ほうそう)炎などです。筋肉の一部が腫れて、熱を帯びたり痛みが強くなったりします。この場合は、早めに病院を受診する必要があります。

「シックデイ」に注意しよう

 ◇シックデイ

 感染症にかかってしまった場合、糖尿病の人は特に注意が必要です。発熱や下痢、嘔吐(おうと)、食欲不振などから食事が取れない状態を「シックデイ」と言います。シックデイで食事を取れなくても、炎症により高血糖となっている場合もあります。使用中の糖尿病薬を自己判断で中止すると、さらに血糖コントロールが悪化する場合があります。また時として、内服薬を通常通り内服すると低血糖を来す事もあります。こうしたことから、主治医の先生とあらかじめ相談して内服薬やインスリン量について相談しておくと良いでしょう。

 海外の報告によると、糖尿病リスクを判別する数値である「HbA1c」が8%を超えた人、あるいは低血糖を来したことのある人は新型コロナウイルス感染症が重症化しやすいというデータがあります。HbA1cが8%以上か、空腹時血糖値が常に140mg/dl以上の人は感染症に罹患するリスクが高いと考えてください。HbA1cを低下させるためには、日頃から、基本的な食事療法と運動療法を少しでも良いのでセットでやってほしいと思います。(了)

 ▼坂本 昌也(さかもと・まさや)

 医師 医学博士

 国際医療福祉大学 糖尿病・代謝・内分泌内科教授。国際医療福祉大学三田病院 糖尿病・代謝・内分泌内科部長。1997年、東京慈恵会医科大学を卒業。専門は糖尿病治療と心血管内分泌学。東京大学、千葉大学で心臓の研究を経て、現在では予防医学の観点から糖尿病患者の研究を続けている。日本糖尿病学会、日本高血圧学会、日本内分泌学会の専門医・指導医・評議員を務める。「最強の医師団が教える長生きできる方法」、「血糖値バイブル」など著書多数。糖尿病治療の啓蒙活動にも力を入れている。


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