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第2回 乳がんの早期発見、マンモグラフィーを柱に
検診、検査から診断が確定するまで 東京慈恵会医科大の現場から

 乳がんは女性で最もかかる人が多いがんです。がん登録推進法に基づく初の患者数公表の対象となった2016年には9万4000人以上がかかったと診断されています。

 死亡数を減らすためには、早期に発見して治療することが重要で、そのためには検診が不可欠です。しかし日本の乳がん検診の受診率は約45%で、欧米の70~80%の受診率と比較してかなり低い値です。

 がん検診は、市区町村で行われる住民検診などの「対策型検診」と、個人単位で受診する人間ドックのような「任意型検診」に分けられます。このうち対策型検診は、がんによる死亡率の低下を目的としているため、目的に沿う実績のある検査方法が採用されます。

 ◇対策型検診は40歳以上で2年に1回

 現在、乳がんの死亡率を減少させる根拠(エビデンス)が示されている検査方法はマンモグラフィー(乳房X線検査)です。日本でも2004年から、40歳以上の女性が2年に1回受診するよう推奨されています。

 ただし、対策型検診は公的資金である税金を使うため、費用対効果や効率も考慮されます。一方の任意型検診は個人の死亡リスク低下が目的になるため、自由に検査方法を選択できます。費用は原則自己負担ですが、コストがかかっても、発見精度の高い検査が選択される傾向があります。

 一般的な乳がん診断の流れとして、検診で異常が発見された場合、あるいは自覚症状がある場合は、視触診と問診に加え、マンモグラフィーと超音波検査(エコー検査)を行った結果に基づいて精密検査を実施します。

 視触診では、乳房の形や皮膚の状態に左右差がないか、乳房にしこり(腫瘤)がないか、脇の下や首のリンパ節が腫れていないか、乳頭のただれや分泌物がないか、などを確認します。問診では、症状の出現時期や、血縁のある親族にがんにかかった人がどのくらいいるか、などを聞きます。

 ◇高濃度乳房ではマンモに弱点も

 マンモグラフィーは、圧迫板という薄い板に乳房を挟み、引き伸ばして圧迫し、X線撮影を行う検査です。画像の上で白く写る腫瘤や石灰化(カルシウムの塊)がないか、あれば良性か悪性かを判断します。

 この検査では、1回の圧迫で複数の角度から撮影し、収集したデータを再構成して3次元的な断層画像を作成する手法もあり、「トモシンセシス」と呼ばれています。腫瘤の形を細かく表現したり、正常な乳腺組織と重なってしまい分かりづらい部分をはっきり観察できたりするようになります。

 超音波検査は、超音波の反射により乳房内を観察します。小さな腫瘤やリンパ節の腫れがないか確認するのに有用です。放射線被ばくがないため、妊娠中の人にも使用可能です。

 マンモグラフィーでは、乳房内の乳腺に混ざっている脂肪の割合が少ないと、乳腺自体が白っぽく写る「高濃度乳房」という状態となり、腫瘤や石灰化が分かりづらいことがあります。若年女性やアジア人では高濃度乳房の比率が高いため、厚生労働省は、マンモグラフィーに超音波検査を併用した検診が有用か検証するため、日本人の40代女性約7万6000人をマンモ単独と併用の2グループに分けて比較する臨床試験を実施し、15年の中間報告で、併用群は発見率などが優れているという結果を発表しました。

 しかし、併用群では精密検査、病変の一部を採る「生検」が追加で必要となる割合も増加してしまいました。これらは検診の「不利益」とされ、その中には、がんではないのにがんがあるかもしれないと判定される「偽陽性」や、死亡には至らないような成長の遅いがんを発見してしまう「過剰診断」も含まれています。

 この結果、対策型検診に超音波検査を組み込むのは時期尚早と判断されています。個人としては対策型でマンモグラフィーを、任意型で超音波検査を受ける使い分けはできるでしょう。

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