胸膜炎、膿胸〔きょうまくえん、のうきょう〕
肺は胸郭(きょうかく)という骨格の中にありますが、胸壁(きょうへき:胸の壁)に直接くっついているわけではありません。胸壁と肺の間には胸腔(きょうくう)と呼ばれるふくろ状の空間があります。この胸腔の内側をおおっている薄い膜が胸膜で、なんらかの原因でこの胸膜に炎症が起こる病気を「胸膜炎」といいます。胸膜炎になると、胸の痛みが出たり、胸腔に水(胸水〈きょうすい〉)がたまったりすることがあります。
[原因]
胸膜炎はさまざまな原因で起こります。
1.感染症…肺炎などに伴って起こることがあります。原因となる病原体には細菌、ウイルス、マイコプラズマ、真菌(カビの仲間)、寄生虫などがあります。結核菌が原因の胸膜炎はかつて「肋膜炎」とも呼ばれていました。病原体の感染によって胸腔内に膿(うみ)がたまった状態を「膿胸」といいます。
2.悪性腫瘍(がん)…がんが胸膜に広がり(浸潤〈しんじゅん〉)、さまざまな症状をひき起こすものを「がん性胸膜炎」といいます。肺がんや他臓器のがんが進行したり転移したりすることで起こります。そのほかに、胸腔に影響を及ぼす悪性腫瘍には、悪性胸膜中皮腫(あくせいきょうまくちゅうひしゅ)や悪性リンパ腫などがあります。
3.肺の血液循環の障害…肺血栓塞栓症(はいけっせんそくせんしょう)に伴って起こることがあります。
4.膠原(こうげん)病…全身性エリテマトーデスや関節リウマチなどの病気に伴って起こることがあります。
5.消化器の病気…横隔膜下膿瘍(おうかくまくかのうよう)、肝膿瘍、膵炎(すいえん)などに伴って起こる胸膜炎です。
6.その他…メイグス症候群(卵巣腫瘍に伴って胸水がたまります)、サルコイドーシス、薬剤(メトトレキサート、ダントロレンなど)が原因となることもあります。さまざまな検査をしても原因を特定することのできない胸膜炎もあります。
[症状][診断]
胸の痛みは、ナイフで刺されるような鋭いものから鈍いものまでさまざまです。また、痛みや、胸水が多くたまることによって息苦しさを感じることがあります。
感染による胸膜炎の場合には、発熱や寝汗が出ることがあります。肺の病気に伴うものであれば、せき、たん、血の混じったたんなどの症状も出現します。
診断のためには、以下のような検査がおこなわれます。
■胸部単純X線検査
胸水がたまっていると、その部分が白く写り、肺の隅(肋骨横隔膜角など、通常は鋭角に見える部分)が鈍く見えることがあります。胸水が胸腔内で動くかどうかを確認するために、からだを横にした状態でX線撮影をおこない、胸水の影が移動するかを見ることがあります。
■胸部CT(コンピュータ断層撮影)検査
胸水の有無だけでなく、胸腔内や肺などに腫瘍などの病変がないかを検出するために必要です。
■胸腔穿刺(きょうくうせんし)・胸水検査
胸腔に針を刺して胸水を採取する検査で、多くの場合、超音波(エコー)を使用しておこないます。採取した胸水の量や色、含まれる成分などを調べることで、胸膜炎の原因となっている病気の診断につながるため、非常に重要な検査です。
■胸膜生検(きょうまくせいけん)
病気によっては胸膜に特徴的な変化があらわれることがあるため、胸膜の一部を採取して(胸膜生検)、顕微鏡などでくわしく調べる(病理検査)こともあります。
[治療]
治療法は、胸膜炎の原因によって異なります。
■細菌感染が原因の場合(肺炎などに伴うもの)
抗菌薬の投与と、胸腔内にチューブを入れてたまった液体を排出する治療(胸腔ドレナージ)をおこないます。炎症が強い場合や、膿胸(胸腔内に膿がたまっている状態)では、これらの治療に加えて、胸腔鏡(きょうくうきょう)という内視鏡を使った手術が必要になることもあります。
■結核性胸膜炎の場合
抗結核薬を使用します。
■がん性胸膜炎の場合
従来の抗がん薬による化学療法が試みられますが、十分な効果が得られないこともあります。しかし、分子標的治療薬や免疫チェックポイント阻害薬といった新しいタイプの薬では、胸水が消失するなど、著しい効果がみられることもあります。 胸水が多量にたまって胸の圧迫感や息苦しさがある場合には、胸水を排出した後に、胸腔内に薬剤を注入し、人工的に炎症を起こして胸膜を癒着(ゆちゃく)させる治療(胸膜癒着術)がおこなわれることもあります。これにより、胸水が再びたまるのを防ぎます。
■膠原病などが原因の場合
原因となっている病気の治療が基本となります。場合によっては、副腎皮質ステロイド薬、免疫抑制薬、抗リウマチ薬などが用いられます。
(執筆・監修:埼玉県済生会川口総合病院 呼吸器内科 主任部長/順天堂大学医学部 講師 南條 友央太)
[原因]
胸膜炎はさまざまな原因で起こります。
1.感染症…肺炎などに伴って起こることがあります。原因となる病原体には細菌、ウイルス、マイコプラズマ、真菌(カビの仲間)、寄生虫などがあります。結核菌が原因の胸膜炎はかつて「肋膜炎」とも呼ばれていました。病原体の感染によって胸腔内に膿(うみ)がたまった状態を「膿胸」といいます。
2.悪性腫瘍(がん)…がんが胸膜に広がり(浸潤〈しんじゅん〉)、さまざまな症状をひき起こすものを「がん性胸膜炎」といいます。肺がんや他臓器のがんが進行したり転移したりすることで起こります。そのほかに、胸腔に影響を及ぼす悪性腫瘍には、悪性胸膜中皮腫(あくせいきょうまくちゅうひしゅ)や悪性リンパ腫などがあります。
3.肺の血液循環の障害…肺血栓塞栓症(はいけっせんそくせんしょう)に伴って起こることがあります。
4.膠原(こうげん)病…全身性エリテマトーデスや関節リウマチなどの病気に伴って起こることがあります。
5.消化器の病気…横隔膜下膿瘍(おうかくまくかのうよう)、肝膿瘍、膵炎(すいえん)などに伴って起こる胸膜炎です。
6.その他…メイグス症候群(卵巣腫瘍に伴って胸水がたまります)、サルコイドーシス、薬剤(メトトレキサート、ダントロレンなど)が原因となることもあります。さまざまな検査をしても原因を特定することのできない胸膜炎もあります。
[症状][診断]
胸の痛みは、ナイフで刺されるような鋭いものから鈍いものまでさまざまです。また、痛みや、胸水が多くたまることによって息苦しさを感じることがあります。
感染による胸膜炎の場合には、発熱や寝汗が出ることがあります。肺の病気に伴うものであれば、せき、たん、血の混じったたんなどの症状も出現します。
診断のためには、以下のような検査がおこなわれます。
■胸部単純X線検査
胸水がたまっていると、その部分が白く写り、肺の隅(肋骨横隔膜角など、通常は鋭角に見える部分)が鈍く見えることがあります。胸水が胸腔内で動くかどうかを確認するために、からだを横にした状態でX線撮影をおこない、胸水の影が移動するかを見ることがあります。
■胸部CT(コンピュータ断層撮影)検査
胸水の有無だけでなく、胸腔内や肺などに腫瘍などの病変がないかを検出するために必要です。
■胸腔穿刺(きょうくうせんし)・胸水検査
胸腔に針を刺して胸水を採取する検査で、多くの場合、超音波(エコー)を使用しておこないます。採取した胸水の量や色、含まれる成分などを調べることで、胸膜炎の原因となっている病気の診断につながるため、非常に重要な検査です。
■胸膜生検(きょうまくせいけん)
病気によっては胸膜に特徴的な変化があらわれることがあるため、胸膜の一部を採取して(胸膜生検)、顕微鏡などでくわしく調べる(病理検査)こともあります。
[治療]
治療法は、胸膜炎の原因によって異なります。
■細菌感染が原因の場合(肺炎などに伴うもの)
抗菌薬の投与と、胸腔内にチューブを入れてたまった液体を排出する治療(胸腔ドレナージ)をおこないます。炎症が強い場合や、膿胸(胸腔内に膿がたまっている状態)では、これらの治療に加えて、胸腔鏡(きょうくうきょう)という内視鏡を使った手術が必要になることもあります。
■結核性胸膜炎の場合
抗結核薬を使用します。
■がん性胸膜炎の場合
従来の抗がん薬による化学療法が試みられますが、十分な効果が得られないこともあります。しかし、分子標的治療薬や免疫チェックポイント阻害薬といった新しいタイプの薬では、胸水が消失するなど、著しい効果がみられることもあります。 胸水が多量にたまって胸の圧迫感や息苦しさがある場合には、胸水を排出した後に、胸腔内に薬剤を注入し、人工的に炎症を起こして胸膜を癒着(ゆちゃく)させる治療(胸膜癒着術)がおこなわれることもあります。これにより、胸水が再びたまるのを防ぎます。
■膠原病などが原因の場合
原因となっている病気の治療が基本となります。場合によっては、副腎皮質ステロイド薬、免疫抑制薬、抗リウマチ薬などが用いられます。
(執筆・監修:埼玉県済生会川口総合病院 呼吸器内科 主任部長/順天堂大学医学部 講師 南條 友央太)