心不全

 日本循環器学会によると、心不全は「心臓がわるいために、息切れやむくみが起こり、だんだんわるくなり、生命を縮める病気」と定義されています。心不全は高齢になるほど起こりやすくなり超高齢化が進むわが国において心不全患者数は急激に増加しており、“心不全パンデミック”と呼ばれることもあります。

■病気の特徴
 心不全はさまざまな心臓病の結果、心臓が全身に血液を送り出すポンプとしての機能が低下して、さまざまな症状が起こります。急激に発症する場合もあれば、徐々に進行する場合もあり、それぞれ急性心不全、慢性心不全と呼ばれます。心不全の症状としては、労作時(急いで歩いたり重い荷物を持って歩いたりした際)の息切れや、足のむくみなどがあります。重症化するとじっとしていても呼吸が苦しくなり、上半身を起こすと楽になる起坐(きざ)呼吸という状態になることもあります。適切な治療がなされないと命にかかわるだけではなく、入院をくり返すことにもなります。
 心不全の原因となる病気には心臓弁膜症や先天性心疾患、心筋症などあらゆる心臓の病気が含まれますが、心筋梗塞に代表される虚血性心疾患を原因とする心不全が最近ではふえています。また、心不全は生活習慣と強く結びついており、高血圧、糖尿病、動脈硬化症、慢性腎臓病などがある場合は特に心不全を起こしやすくなります。

■養生のポイント
 過激な運動やストレスを避ける、禁煙、節酒はもちろんのこと、食事中の塩分を厳しく制限する(1日6g以下)必要があります。一度心不全になると、上記の症状をとるための利尿薬、心臓を保護するためのACE阻害薬やβ遮断薬、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬といった複数の薬が必要になります。調子がよくなったからといって自己判断でこれらの薬をやめてしまうとまた症状が悪化するので、服薬をきちんと継続することが大事です。また、肺炎やインフルエンザにかかると心不全が悪化するので、これらのワクチン接種を定期的に受けることがすすめられます。

■生活上の注意
 心不全は予防がもっとも大事です。食事や適度な運動などの生活上の注意に加えて、高血圧や糖尿病など心不全の危険因子がある場合はそれぞれのコントロールが必要となります。生活習慣の改善だけで血圧や血糖値が適正にコントロールできない場合は薬物療法も必要になります。血圧を厳格にコントロールすることによって心不全の新規発症を予防できることは以前から知られており、また最近、糖尿病治療薬のなかでもSGLT2阻害薬という系統の薬が将来の心不全の発症を予防することがあきらかになっています。

□食事
 塩分は1日6g以下となるよう厳格に制限する必要があります。水分については重症の心不全を除いて制限の必要はありません。いっぽうで、水分を摂取しすぎると血液の水分量がふえて心臓の負担となってしまいますので、水分摂取が過度にならないように気をつけましょう。高血圧、腎臓病、糖尿病などの基礎疾患のある方はそれぞれの食事療法を守ってください。また体重がふえるとその分心臓の負担もふえることになります。肥満傾向の方はBMI 25を目標に減量を心がけましょう。

□運動
 心不全になった場合でも適度の運動は必要です。ただし、心臓を鍛えようと思って無理な運動をするとかえって心臓に負担がかかり逆効果です。心不全の患者さんが本格的に運動療法をおこなう際には、まず心肺運動負荷試験という検査をおこなって最大酸素摂取量や嫌気性代謝閾値などを調べて、それぞれの患者さんの状態に適した運動処方を専門の医師が作成する必要があります。運動の種類は有酸素運動とレジスタンス運動を組み合わせるのが一般的です。運動療法に加えて、生活指導や服薬指導、自己管理の指導など包括的なケアを複数の医療職が協力しておこなうのが心臓リハビリテーションです。心臓リハビリテーションをおこなうことによって死亡や心不全の悪化による入院を予防できることが、わが国の調査によってもあきらかになっています。

■定期健診
 心不全の初期には症状がはっきりしないため診断がつきにくいのですが、定期健康診断で心拡大や不整脈などの異常が見つかり、それをきっかけに心不全が診断されることがあります。また、心不全になると血液の中のBNPあるいはNT-proBNPというホルモンが上昇するため、これらを測定することによっても診断できる場合があります。
 まだ心不全になっていなくても糖尿病や高血圧、あるいは基礎になる心臓病のある方は定期的に心不全の症状や検査所見があらわれていないかどうかをチェックしてゆくことも心不全の早期発見という観点から重要です。

【参照】心臓の病気:心不全

(執筆・監修:自治医科大学名誉教授/社会医療法人さいたま市民医療センター院長 百村 伸一