腎臓疾患 家庭の医学

■急性腎炎
□病気の特徴
 急性腎炎では、尿量が減少して、急速に体重が増加することがあります。顔面の浮腫(むくみ)や体重の急激な増加に気づいたならば、すぐに医師の治療を受けることが大切です。
 入院して適切な治療を受ければ、急性腎炎は腎臓病のなかではもっとも治りやすい病気なので、90%くらいの人は治癒します。
 順調な経過をとれば約1~2カ月くらいでたんぱく尿や血尿が消失します。しかし、尿が正常化しても腎臓自体が正常になるには、さらに6~12カ月くらい必要です。つまり、完全に治癒するまでには、少なくとも1年くらいかかりますので、その間は尿が正常化していても激しい運動は避けたほうがよいでしょう。

□生活上の注意
・安静…急性期の3~4週間は一生を決定する大切な時期で、入院治療が必要です。急性期を過ぎても、完全に治癒するには少なくとも1年要するので、その間は必ず医師の指導に従うことが大切です。
・食事…食事療法の根本は、尿をつくる腎臓の負担を軽くして腎臓に休養を与え、同時に尿の成分が体内にたまるのを防ぐことにあります。このため、水分、食塩、たんぱく質を制限します。
・運動・仕事…急性期にはもちろん入院治療が必要です。退院したあとも、完全に治癒するまでは相当期間安静が必要ですので、その間の運動や仕事に関しては、担当医師の指導に従ってください。原則として激しい運動は禁止です。

■慢性腎炎
□病気の特徴
 慢性腎炎は、腎炎の症状(たんぱく尿、血尿、浮腫、高血圧)が1年以上続き、多くは完治することがむずかしい病気です。慢性腎炎の約10%は、急性腎炎が慢性化したものと考えられています。
 残りの慢性腎炎は、いつ発病したかわからないことが多く、定期健康診断やほかの病気で受診したときなどに、偶然に発見されるものが大部分です。
 症状が強いほど重症と考えられます。たとえば、顕微鏡でしかみとめられない微量の血尿やそれに軽微なたんぱく尿を伴う程度の場合は、一般に食事や運動に十分注意すれば経過はよく、あまり問題になりません。しかし、尿内の尿たんぱくが1日1~2g以上になったり、高血圧や浮腫が出てくるようになると、その後しだいに病気が進行して腎不全になることがあります。

□療養のポイント
 病気の早期発見が大切です。尿たんぱくが1日1~2gぐらいでは、自覚症状は特にありません。無自覚のまま病気が進行するおそれがあります。
 定期的に健康診断を受け、血尿やたんぱく尿を指摘されたら、病院を受診し検査を受けたうえで、その後の処置に関し医師とよく相談することが大切です。
 はじめに正確な診断(特に病型診断)を受けることがもっとも大切で、その診断にもとづいて、規則正しい日常生活と食生活をすることが、養生のポイントになります。

□生活上の注意
・安静…病状によって安静度も異なりますが、一般的には十分睡眠をとり、規則正しい生活をすることが重要で、過激な労働や運動、あるいは夜間勤務などは避けたほうがよいでしょう。
・食事…基本的には、塩分制限・たんぱく質の制限が慢性腎炎の進行を抑えるために大切です。腎臓病の治療食に関しては、病状に応じて違いがありますので、医師および管理栄養士の指導を受けてください。

□定期健診
 すでに述べたように、慢性腎炎は無自覚のまま、健康診断やほかの病気で受診したときに偶然発見されることが多いので、早期発見のためには、定期的に健康診断を受けておく必要があります。

■糖尿病腎症
□病気の特徴
 腎臓は、からだの中でいらなくなった老廃物を含む血液を濾過(ろか)して、老廃物を尿として体外に排出するとともに、きれいになった血液を体内に戻すというきわめて重要なはたらきをしています。この血液を濾過する役割をしているのが、腎臓の糸球体と呼ばれる場所です。糖尿病によって高血糖の状態が長期間続きますと、糸球体の濾過機構が破綻してしまいます。この状態が糖尿病腎症といわれるものです。
 わが国の人工透析患者の多くは、糖尿病腎症が進行して腎不全に移行し、透析が必要になった患者さんです。したがって、糖尿病腎症を原因とする透析導入をいかに減少させるかが、重要な問題となっています。

□病気の予防
 糖尿病腎症の初期の徴候を見逃さないことが大切です。腎症の場合も自覚症状や徴候はあまりありませんが、尿検査によって初期の徴候を見つけることが可能です。すなわち、微量のたんぱく質(微量アルブミン)の検出です。この段階は「早期腎症」と呼ばれ、適切な治療をすることによって腎症への進行を遅らせることが可能です。ですから、まず微量のたんぱくが尿から検出された時点で、血糖値を下げる努力をすることが急務といえます。
 早期腎症の段階で病気がわからず、腎症が進むともう少したくさんのたんぱく質が尿に出てくるようになります。ここまで進行すると、しだいに血圧も上昇してきます。高血圧はそれ自体が血管を傷つけ、さらに腎臓の状態を悪化させ、悪循環が生じます。この悪循環を断ち切るには厳重な血糖コントロール、血圧のコントロールとたんぱく質制限が必要になります。糖尿病腎症を早期に発見し、悪化しないようにコントロールするためにも定期的に病院へ行って検査を受けるようにしましょう。

■慢性腎臓病
 慢性腎臓病(CKD)とは、さまざまな原因で腎臓のはたらきが健康な人の60%以下に低下するか、あるいは、たんぱく尿が出るといった腎臓の異常が続く状態をいいます。慢性腎臓病は高血圧、糖尿病、脂質異常症、肥満やメタボリックシンドロームなどに多くみられ、心筋梗塞や脳卒中といった心臓や血管の病気の主要な危険因子としてとらえられています。腎臓の機能がかなり悪化すると、浮腫(むくみ)、尿量の減少などの症状が出ますが、慢性腎臓病の初期では自覚症状がありませんので、健康診断などで血液のクレアチニン値や尿たんぱくを定期的にチェックしておくことがすすめられます。また、血清クレアチニン値や年齢・性別から腎臓の機能の指標であるe-GFR(推定糸球体濾過量)を計算することができます。
□養生のポイント
 肥満、運動不足、飲酒、喫煙、ストレスなどの生活習慣の是正を心掛けることが基本となります。腎臓を守るための食事の基本は減塩です。また、すでに腎臓の機能が低下している場合には、食事中のたんぱく質を制限する必要があります。また夏季には水分が失われやすく腎臓に負担がかかりますので、適切な水分補給も必要になります。
 腎臓病が進行して腎機能の低下が進んでいくと、さまざまな病気が起きた場合の検査や治療薬が制限され十分な治療ができないことにもなり、さらに最終的には血液透析が必要となってしまいますので、腎臓病の進行は食い止めなければなりません。血圧はできるだけ低めにする必要があり、たんぱく尿を伴う慢性腎臓病では年齢にかかわらず、血圧は130/80mmHg未満にすることがすすめられています。また、長らく有効な薬がありませんでしたが近年、SGLT2阻害薬が慢性腎臓病の進行をおさえ、腎機能の低下にブレーキをかける臨床的効果があきらかになり、薬による有効な治療が可能になりました。
 健診でeGFRが60mL/分/1.73m2未満、または、たんぱく尿を指摘された場合は、早く専門医の診察を受けることが重要です。早期の診断と治療により、慢性腎臓病を軽症のうちから効果的に進行を予防します。

(執筆・監修:自治医科大学附属さいたま医療センター 総合医学第1講座 主任教授/循環器内科 教授 藤田 英雄)