頭頸部がんは呼吸や食事などQOLに直結する機能を障害する上、整容に配慮した治療を要するため、予防を含めた対策の確立が強く求められる疾患である。代表的な危険因子は飲酒と喫煙であるが、中咽頭がんとヒトパピローマウイルス(HPV)、上咽頭がんとエプスタイン・バーウイルス(EBV)のように一部のがんではウイルス感染との関連が見られる。ドイツ・Charité Universitätsmedizin BerlinのJennifer von Stebut氏らは、頭頸部がんと単純ヘルペスウイルス(HSV)との関連について大規模データベースTriNetXを用いて解析。HSV感染により頭頸部がんの発症リスクが有意に高まること、特に口唇がんとの関連が強いことをInt J Dermatol2024年4月21日オンライン版)に報告した(関連記事「中咽頭がん予防、男性にもHPVワクチンを」)。

主要な危険因子「飲酒と喫煙」を除外し、約50万人を解析

 HSV感染症は一般的なウイルス感染症の1つで、世界保健機関(WHO)によると、世界の50歳未満の67%(37億人)がHSV-1に、15〜49歳の11%(4億1,700万人)がHSV-2に感染しているという(https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/herpes-simplex-virus)。HSV-1は口唇や眼などのヘルペス、HSV-2は性器ヘルペスを主に引き起こすが、どちらも体に広範囲な水疱が生じることがある。

 von Stebut氏らは、世界1億1,000万人の電子カルテ情報を集積しているTriNetXの患者データから、国際疾病分類第10版(ICD-10)のコード(B00:ヘルペスウイルス[単純ヘルペス]感染症、C00-14:口唇、口腔および咽頭の悪性新生物〈腫瘍〉)を用いて同定し、後ろ向き解析を行った。

 まず2023年3月以前の20年間に入院した患者を抽出、B00に該当するか否かで分類後、年齢と性をマッチングした2つのコホート(HSV感染あり群とHSV感染なし群、各24万9,272人)を構築。アルコール(F10.2:アルコール使用<飲酒>による精神および行動の障害、依存症候群)と喫煙(F17:タバコ使用<喫煙>による精神および行動の障害)は傾向スコアマッチングにより除外した。

 HSV感染の有無で分けた2群に対し、頭頸部がんの発症リスク分析と発症後5年間のKaplan-Meier生存分析を実施した。

頭頸部がんと口唇がんは、死亡にもHSV感染が関連

 解析の結果、頭頸部がんの発症リスクは、HSV感染なし群(C00-14該当者351人)に比べ、HSV感染あり群(同488人)で有意に高かった〔オッズ比(OR)1.29、95%CI 1.22~1.6〕。5年間の推定生存率は両群とも100%に近かったが、HSV感染は頭頸部がんによる死亡リスクを有意に上昇させた〔ハザード比(HR)1.17、同1.02〜1.32、P=0.047)。

 サブ解析として、C00からC14の頭頸部がん15項目それぞれの発症リスクを見たところ、口唇がん(C00:口唇の悪性新生物〈腫瘍〉)と上咽頭がん(C11:鼻〈上〉咽頭の悪性新生物〈腫瘍〉)が高く、特に前者が突出していた(OR 3.69、同2.12〜6.41、)。

図.HSV感染と頭頸部がん発症リスクとの関連(オッズ比)

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Int J Dermatol, 2024年4月21日オンライン版

 そこで、口唇がんについても発症後5年間のKaplan-Meier生存分析を行ったところ、統計学的な有意差は認められなかったが、死亡リスクとHSV感染との間に強い関連が示された(HR 3.08、P=0.46)。なお、口唇がんの発症部位別に比較した結果、内側よりも外側に発症したがんとの関連が強かった(外側:OR 2.47、同1.41〜4.34、内側:OR 1.1、同0.47〜2.59)。

 以上の結果について、von Stebut氏らは「生命予後に大きな影響はないと考えられているHSV感染症であるが、頭頸部がんの新たな危険因子としての可能性が示された」と結論。ただし研究の限界として、①ICD-10ではHSV-1と2が分類されておらず、両者を区別した解析ができなかった、②解析対象約50万人中、口唇がん発症は計75人と非常に少なかったため、HRの統計学的有意性が限定的である−などを挙げている。

(編集部)