厚生労働省は、住友ファーマが製造販売するαβ遮断薬アロチノロール(商品名アロチノロール塩酸塩「DSP」5mg、同10mg)から発がん性化学物質のN-ニトロソアロチノロールが検出されたとの報告を受け、3月25日に開催された第11回薬事審議会医薬品等安全対策部会安全対策調査会(以下、安全対策調査会)で対応を審議。同薬使用に伴う健康影響評価、使用者への対応などを取りまとめ、医薬局医薬安全対策課と医薬局監視指導・麻薬対策課は昨日(3月26日)付で事務連絡「N-ニトロソアロチノロールが検出されたアロチノロール塩酸塩製剤の使用による健康影響評価の結果等について」を発出した。同薬の既に流通しているロットについては、欧州医薬品庁(EMA)のガイドラインに基づく暫定管理値を下回っており、狭心症患者における同薬の急な投与中止は症状悪化や心筋梗塞の恐れがあるため、自己判断での中止をしないよう説明することなどを求めている。
発がんリスクは国際基準上回るが、急な中止は症状悪化のリスク
近年、国内外で医薬品から発がん性物質であるN-ニトロソジメチルアミンなどのニトロソアミン類が検出され、一部の製品が自主回収されている(関連記事「抗うつ薬アモキサピン、発がん性物質を検出」「発がん物質検出でラニチジン自主回収」「『メトホルミンから発がん物質』で対応指示」)。こうした事態を受け、厚労省は製造販売業者に対しニトロソアミン類の混入リスクに関する自主点検を行い、リスクの低減・管理に努めるよう通知している。
N-ニトロソアロチノロールは製剤製造工程において、主にアロチノロールとコーティング剤のベントナイト中の亜硝酸などが反応することで生成されると考えられる。住友ファーマが行った今回の調査では、一部ロットにおいてEMAのガイドラインに基づくN-ニトロソアロチノロールの1日許容摂取量1,500ngに基づく限度値である50ppm(アロチノロール30mg/日で換算)を上回る量が検出された。
アロチノロール使用に伴う健康被害については、同薬が承認された1985年11月から国内の全製剤がN-ニトロソアロチノロールを低減した製剤に入れ替わると想定される2028年までを含む生涯(70年)にわたり、最大曝露量(30mg/日)を服用した場合の発がんリスクの増加は、約7万1,000人に1人に相当すると推定された。これは、医薬品規制調和国際会議の『潜在的発がんリスクを低減するための医薬品中DNA反応性(変異原性)不純物の評価及び管理ガイドライン』(ICH-M7ガイドライン)で許容可能とされている、約10万人に1人の増加を上回っている。
しかし、狭心症患者における同薬の急な投与中止は症状の悪化、心筋梗塞のリスクを高める恐れがある。事務連絡では、①休薬を要する場合は漸減して十分に観察を行う、②狭心症以外の適応であっても、高齢者では漸減する-必要があるため、医療機関などに対し患者が自己判断で服用を中止しないように説明することを求めている。また使用中の患者には、先述のリスクの程度とともに中止のリスクを踏まえ、同薬の使用を検討してもらうよう周知を依頼している。
限度値を下回る製剤を順次生産し供給を継続
住友ファーマによると、ベントナイトの供給元変更などにより、アロチノロールのN-ニトロソアロチノロール含有量が限度値を下回ることが確認されたという。これを受け、限度値を下回る製剤を順次生産し、供給を継続するとしている。また、暫定管理値である335ppm以下であれば出荷を許容するとされたことから、既に流通している製剤について回収、処方中止や変更などの措置は必要ないと判断した。
なお今回の知見を踏まえ、厚労省は他のアロチノロール塩酸塩製剤についても成分分析を行い、対応を検討するよう各社に指示。分析結果に基づき必要な措置を講じるとしている。
(編集部・関根雄人)