米・Albert Einstein College of Medicine/イタリア・University of Naples Federico ⅡのGaetano Santulli氏らは、高血圧を有するプレフレイルの高齢者を対象にフレイルへの進展リスクを検討。その結果、前糖尿病状態の者(HbA1c5.7~6.4%)は非前糖尿病者と比べて1年後にフレイルを発症するリスクが有意に高く、フレイルを発症した前糖尿病者では糖尿病治療薬メトホルミンの投与によりフレイルが有意に改善したとHypertension(2024; 81: 1637-1643)に発表。メトホルミンが効果的なフレイル抑制薬になる可能性があるとしている。
フレイル発症に前糖尿病が及ぼす影響は不明
前糖尿病は、特に高齢者においてプレフレイルおよびフレイルのリスクを高めることが知られており、高血圧との関連から注目されている。また認知・身体機能障害は、前糖尿病の高血圧患者で、特にフレイルの高齢者で散見される。
Santulli氏らはこれまで、フレイル例におけるインスリン抵抗性と認知機能に強い関連性があること報告している(Eur J Prev Cardiol 2023; 30: 1283-1288、Atherosclerosis 2022; 341: 52-54)。しかし前糖尿病がフレイル発症に及ぼす影響については明らかでない。
そこで同氏らは、2021年3月~23年1月にイタリア保健省アヴェリーノ地方保健局(ASL AV)において、65歳以上、軽度認知機能障害(MCI)評価スケールMontreal Cognitive Assessment(MoCA)のスコアが26点未満(MCIに該当)で、前糖尿病を伴うプレフレイル高齢高血圧(140/90mmHg以上)患者302例を対象に、インスリン抵抗性と認知・身体機能障害の関連を検討する目的で1年間追跡。さらにフレイル例にメトホルミンを投与し、フレイルへの影響を評価した。
インスリン抵抗性指標のTyG指数が認知・身体機能障害と相関
解析対象は208例で、うち103例が前糖尿病者(平均年齢78.5±8.5歳、女性57例)だった。プレフレイルの定義は、Friedらの表現型モデルで①体重減少、②身体活動度低下、③歩行速度低下、④握力低下、⑤疲労感―のうち1~2項目に該当する場合とした。
まず、空腹時トリグリセライド(TG)値(mg/dL)×空腹時血糖値(mg/dL)/2として算出したTG・グルコース(TyG)指数に基づくインスリン抵抗性と、MoCAスコアで評価した認知機能障害および5m歩行速度で評価した身体機能障害との関連を解析した。
その結果、TyG指数との有意な相関が認められたのは、MoCAスコア(r=0.880、P<0.0001)、5m歩行速度(r=0.809、P<0.0001)だった。Santulli氏らは「インスリン抵抗性は認知機能障害および身体機能障害の発症に大きな影響を及ぼすことから、前糖尿病状態であっても高血圧の管理における重要な治療標的となることが示された」と述べている。
メトホルミン群では非フレイルの改善割合が有意に多い
次に、追跡1年後のフレイル発症リスクをKaplan-Meier曲線で解析した結果、非前糖尿病者と比べて前糖尿病者で有意にリスクが高かった(P<0.0001)。多変量Cox回帰分析では、前糖尿病者において加齢がフレイル発症リスクの有意な寄与因子であることが確認された〔ハザード比(HR)1.098、95%CI 1.059~1.139、P<0.0001〕。
さらに、前糖尿病者でフレイルを発症した45例を、メトホルミンを1日1回500mg投与するメトホルミン群(22例)と非投与群(23例)にランダムに割り付けて6カ月追跡した。その結果、メトホルミン群では非投与群に比べて非フレイルの状態に改善した者の割合が有意に多かった(P<0.0001、図)。
図. 非フレイルの状態に改善した者の割合
(Hypertension 2024; 81: 1637-1643)
以上の結果から、Santulli氏らは「前糖尿病はフレイルの発症リスクを有意に上昇させることが示された。一方、糖尿病の確立された治療薬であるメトホルミンが、フレイルの抑制に有効であることが示唆された」と結論している。
(太田敦子)