超高齢化社会における歯科の役割
~口腔ケアによる誤嚥性肺炎の予防~ 堺平成病院・歯科科長 歯学博士 島谷 浩幸
現場でできる対策③
当院歯科では専用キットを使用したカンジダ簡易培養検査を実施し、実際の臨床に役立てています。
誤嚥性肺炎の原因菌の大半は多種多様な細菌(肺炎球菌など)ですが、真菌類であるカンジダ菌にも注意を払う必要があります。
口腔内のカンジダ菌を誤嚥することによる真菌性肺炎が知られているほか、免疫力が低下した高齢者においてはカンジダ菌が口腔内から血流に乗って内臓各部に移行し、重篤な内臓真菌症を起こすリスクも伴います。
図4のように、綿棒で舌や頰粘膜などから採取した試料をキットの培地に接種し、24~48時間の期間、37℃で培養します。
陽性の場合、歯科スタッフや看護師、作業療法士などの他職種による定期的な口腔ケアを続けるとともに、内科等の主治医と連携して抗真菌薬を投与するなどの対応をします。
図5は、舌表面の舌苔(ぜったい)に著明な症状改善が認められた例です。
カンジダ菌は舌などの口腔粘膜のほか、義歯のレジン素材にも付着しやすい性質があるため、舌ブラシを使用した舌表面のケアも含めた口腔ケアとともに、専用の義歯ブラシを使用した義歯清掃も実施しました。
1週間後には舌苔が減少し、動きにくかった舌の動きも回復しました。誤嚥性肺炎も改善し、早期退院につながりました。
◇義歯をキレイに保とう
私が勤める病院歯科は高齢患者が多く、義歯の保有率は高いです。しかし、義歯の取り扱いや保管に問題のある方も多く、特にその手入れの方法は繰り返し指導しています。
義歯を外してすぐに義歯洗浄剤を入れたコップ等に浸けてしまう患者がいかに多いかを、日々痛感しています。
これでは義歯表面の汚れ、特に「義歯性プラーク」は除去できません(図6)。
この義歯性プラークには食渣(しょくさ)のほか、先ほどのカンジダ菌や多種の細菌類が含まれ、唾液を介して誤嚥すれば、誤嚥性肺炎のリスクが高まります。
テレビコマーシャルなどで100%に近い除菌率を大々的に宣伝する商品もありますが、日常的に使用している義歯については、そのような高い除菌率を達成することは難しいと考えて間違いないでしょう。
なぜなら、義歯に付着する義歯性プラークは、風呂場や台所の水アカのように微生物がネバネバした粘着物質(バイオフィルム)で強固に粘着しているからです。
何より重要なのは、義歯ブラシの毛先をしっかりと義歯の表面に当てることです。特に歯にかける金具(クラスプ)の周辺など、磨きにくい箇所には注意が必要です(図6)。
歯磨きと同様に、どれだけ力を入れて洗っても、ブラシの毛先が当たらないことには汚れを落とせません。
こすり洗いした後に義歯表面を指で触ってヌルヌルした感触が残っていれば磨きはまだ不十分ということで、洗い直しが必要です。
最後の仕上げで、ようやく義歯洗浄剤に浸け置き消毒することになります。
義歯を清潔に保ち、誤嚥性肺炎のリスクを少しでも減らすことが大切です。
◇まとめ
以上のように、高齢者の身体的な特徴や機能的・認知的な衰えについて正しく理解した上で、食事における配慮や定期的な口腔ケア等で誤嚥性肺炎を防ぎ、命を守りましょう。(時事通信社「厚生福祉」2022年07月29日号より転載)
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・厚生労働省:令和2年人口動態統計月報年計(概数)の概況
・慶応義塾大学病院 医療・健康情報サイト「KOMPAS」
・8020推進財団:第2回 永久歯の抜歯原因調査報告書(2018)
・恒石美登里他:レセプト情報・特定健診等情報データベースを用いた高齢者における歯数と誤嚥性肺炎による医科受診との関連「老年歯科医学」32巻3号、349-356(2017)
・厚生労働省:平成28年度歯科疾患実態調査
・米山武義他:口腔衛生の誤嚥性肺炎に対する予防効果「日歯医学雑誌」20、58-68(2001)
・阪口英夫:高齢者における口腔カンジダ症の治療と予防「Med Mycol J」Vol.58, 43-49(2017)
・島谷浩幸:頼れる歯医者さんの長生き歯磨き わかさ出版(2019)
(2022/08/22 05:00)
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