亜鉛欠乏症の早期発見
~味覚障害、皮膚炎などに注意(順天堂大学 横川博英先任准教授)~
ミネラルの一つである亜鉛は、生命維持の重要な役割を担っている。亜鉛が不足する亜鉛欠乏症は、味覚障害や多くの病気との関連が指摘されている。亜鉛欠乏症に詳しい、順天堂大学医学部(東京都文京区)総合診療科学講座の横川博英先任准教授に話を聞いた。
亜鉛不足で見られる症状の例
◇4~5割が潜在性欠乏
亜鉛は体内のさまざまな酵素を正常に働かせるのに欠かせない栄養素だ。筋肉や骨をはじめ多くの臓器に含まれているが、体内では産生することができず、食事で摂取するしかない。
「日本人の食事摂取基準2020年」では成人の1日の亜鉛推奨摂取量は、男性10~11ミリグラム、女性8ミリグラムとなっているが、平均摂取量は男女とも下回っている。血液中の亜鉛濃度の基準値は1デシリットル当たり80~130マイクログラムで、同60~80マイクログラム未満は潜在性亜鉛欠乏、同60マイクログラム未満が亜鉛欠乏症だ。
横川先任准教授らの研究グループが同医院の人間ドック受診者を対象に血清亜鉛濃度を調べた結果、男性の約半数近く、女性の約4割が潜在性亜鉛欠乏の状態だった。
さらに、全国の急性期病院で治療を受け、血清亜鉛濃度を測定した患者1万3100人のうち、およそ3人に1人が亜鉛欠乏症であることが分かった。特に、誤嚥(ごえん)性肺炎、褥瘡(じょくそう)、筋肉量と筋力が低下するサルコペニア、慢性腎臓病の患者では半数以上を占めた。また、加齢に伴って血清亜鉛濃度が低下する傾向も明らかになった。
亜鉛が不足すると、味覚障害、皮膚炎、貧血、食欲不振、成長期の身長・体重の増加不良、疲労感などさまざまな症状が表れる。「また、亜鉛とストレスは密接に関係し、亜鉛が欠乏することで精神面の不調が生じることもあると考えられています」
◇食事で上手に摂取
亜鉛欠乏症、潜在性亜鉛欠乏の治療では、まず牛肉やレバーなど、亜鉛を多く含む食事を取る。肉や魚に含まれる動物性タンパク質、ビタミンC、クエン酸などは亜鉛の吸収を促進する。一方、小麦などの穀類、コーヒー、オレンジジュースなどは吸収を妨げる。
食事療法だけで改善しない場合や重度の亜鉛欠乏の場合は酢酸亜鉛水和物、ヒスチジン亜鉛水和物製剤などによる薬物治療を検討する。
横川先任准教授は「まず亜鉛を含めた栄養状態をチェックする必要があります。持病がある人は亜鉛欠乏にも配慮した治療が大切です。気になる症状がある場合は内科、耳鼻咽喉科、皮膚科などの受診をお勧めします」と話している。(メディカルトリビューン=時事)(記事の内容、医師の所属、肩書などは取材当時のものです)
(2024/11/25 05:00)
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