「医」の最前線 「新型コロナ流行」の本質~歴史地理の視点で読み解く~

コロナ流行の第5波はいつ来るか
~デルタ型変異株が3割、英でも増加~ (濱田篤郎・東京医科大学病院渡航者医療センター特任教授)【第21回】

 3月から始まった新型コロナウイルス流行の第4波は6月中旬になり、ようやく収束に向かっています。この流行は英国由来の変異株によるもので、感染力や病原性が従来型に比べて強いため、関西では医療崩壊に近い状態にまで陥りました。東京や大阪では緊急事態宣言が発令されて2カ月がたち、期限の6月20日が目前に迫っています。このまま宣言を解除した場合、第5波の襲来はあるのでしょうか。また、それはいつ頃なのか。新たな変異株の流行、オリンピックの開催、ワクチン接種の進展など多くの動きがある中、これから1カ月ほどの流行を予測してみます。

赤信号と東京五輪のエンブレム=AFP時事

 ◇第4波と緊急事態宣言

 新型コロナの流行に伴い、緊急事態宣言は日本で3回出されています。第1回は2020年4月から5月、第2回は2021年1月から3月、第3回は2021年4月25日から現在までになります。この中でも第1回は初めての経験であり、多くの国民が宣言に伴う措置に従いました。それに比べて第2回は、国民がコロナ慣れしている時期に行われており、飲食店の時短営業などが行われたものの、国民の協力はあまり得られませんでした。しかし、ここまでの流行は従来型のウイルスだったため、宣言を発令することで、新規感染者数はそれに連動して減少していきました。

 一方、第4波の流行は英国由来のアルファ型変異株によるもので、従来型に比べて感染力が1.5倍以上強く、重症化する者も多かったのです。この結果、関西では多くの感染者が出るとともに、重症者が医療機関に入院できずに、自宅などで死亡するケースも多発しました。まさに医療崩壊の危機だったと言ってもいいでしょう。

 この対策として、政府は関西や東京などに第3回の緊急事態宣言を発令しますが、今までと異なり、酒類などの提供店に休業要請するという強い措置を打ち出したのです。これは居酒屋などの営業を止めたばかりでなく、飲酒が欠かせない料理店の営業にも大きな影響を与えました。そして、この強い措置の効果で、第4波は6月に入り、ようやく収束に向かっていきます。

 ◇解除後のリバウンド

 では、第3回の緊急事態宣言をいつまで続けるか。今までよりも強い措置を取ったため、飲食店への経済的な影響は甚大でした。また、国民もかなりのストレスを感じていると思います。こうした背景から、まずは宣言を6月20日で解除することが必要と考えます。

 ここで頭をよぎるのが昨年7月のリバウンドです。あの時は第1波流行の残り火が、緊急事態宣言後に東京などから全国に拡大し、第2波の流行になりました。今回も宣言の解除により、アルファ型変異株の残り火が、東京や関西などで拡大していくことが予想されます。特に今回の緊急事態宣言の措置は強かっただけに、その反動で解除後は多くの人が繁華街に繰り出していく可能性もあります。

 そこで、緊急事態宣言解除後に、まん延防止等重点措置を発動し、一段階緩和した制限を続けるべきと考えます。さらに、こうした第4波のリバウンドにより、第5波の流行が7月から9月の五輪・パラリンピック期間中に起こる可能性も想定しておかなければなりません。

 ◇インド由来・デルタ型変異株の脅威

 もう一つ、第5波として流行する可能性があるのが、インド由来のデルタ型という変異株です。このウイルスはインドで今年4月に大流行したように、感染力はアルファ型よりさらに強いとされています。

 英国でも今年1月ごろまではアルファ型が流行していましたが、最近ではほとんどがデルタ型に置き換わっています。東南アジアの国々でもデルタ型と見られる流行の拡大が起きており、マレーシアやタイなど今まで感染者数が少なかった国でも流行が発生しています。

 日本でも4月から少しずつデルタ型のウイルスが確認されており、特に東京では6月に入り、クラスターの発生も見られます。東京都の変異型スクリーニング調査の6月6日報告分では、デルタ型が3割を占めていました。

 この変異株が国内で第5波として流行を起こすと、感染力がさらに強いことから、大変厄介なことになります。五輪・パラリンピック期間中に緊急事態宣言の再発令もあり得るでしょう。

 現在、政府としては水際対策でその侵入を防ぐとともに、国内流行を早期に探知するため、デルタ型のスクリーニングを行うことを各自治体に求めています。

東京都庁で記者会見する小池百合子知事=2021年05月14日

 ◇ワクチンの効果は不明

 このように第5波の流行としてはアルファ型のリバウンドや、デルタ型の新たな拡大が考えられるわけですが、こうした変異株にワクチンの効果はあるのでしょうか。

 日本で使用されているファイザー社やモデルナ社のmRNAワクチンは、アルファ型変異株には効果があるとされていますが、デルタ型については不明です。効果があるという報告も散見されますが、もう少し詳細な調査が必要です。

 今、注目されているのは英国での流行状況です。この国ではmRNAワクチンなどで、国民の4割以上が接種を完了しています。その中でデルタ型の感染者が少しずつ増加しているのです。今後、英国で感染者数が増え続けた場合、この変異株にワクチンの効果があまりないと考えることもできます。

 また、もし効果があったとしても、日本では接種完了者がまだ5%以下と少なく、それが50%近くになるまでは集団免疫による流行阻止ができません。

 ◇五輪・パラリンピック開催との関係

 東京五輪の開催は7月23日と約1カ月先です。この時期に第5波の流行が重なる可能性があり、もし、それがデルタ型の流行であると、緊急事態宣言が発令されることを想定しなければなりません。こうした状況下で開催できるか否かの議論もありますが、大会の運営に大きな影響が出ることは避けられません。日本は感染リスクが高い国と判断され、選手団の派遣を中止する国が出ることも考えられます。

 その一方で、五輪・パラリンピックの開催が第5波の流行に影響するでしょうか。まず、海外からの参加者が日本にデルタ型変異株を持ち込むリスクはあります。しかし、既に国内でこの変異株の感染者が続発していることを考えると、むしろ、国内で人流を増やす方が問題になります。これを防ぐためには、試合会場を無観客にすることや、パブリックビューイングを中止するなどの人流対策が必要です。

 これからの1カ月は五輪・パラリンピックの開催を目前にした日本にとって「長い1カ月」になるでしょう。国際オリンピック委員会(IOC)や組織委員会、東京都は今後1カ月の流行状況を予測した上で、安全な大会運営を行ってほしいと思います。(了)


濱田 篤郎 特任教授

 濱田 篤郎 (はまだ あつお) 氏

 東京医科大学病院渡航者医療センター特任教授。1981年東京慈恵会医科大学卒業後、米国Case Western Reserve大学留学。東京慈恵会医科大学で熱帯医学教室講師を経て、2004年に海外勤務健康管理センターの所長代理。10年7月より東京医科大学病院渡航者医療センター教授。21年4月より現職。渡航医学に精通し、海外渡航者の健康や感染症史に関する著書多数。新著は「パンデミックを生き抜く 中世ペストに学ぶ新型コロナ対策」(朝日新聞出版)。

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