「医」の最前線 「新型コロナ流行」の本質~歴史地理の視点で読み解く~

まだ間に合う事業継続計画
~東京の欠勤者急増の予測も~ (濱田篤郎・東京医科大学病院渡航者医療センター特任教授)【第36回】

 新型コロナウイルスの第6波の流行が止まりません。オミクロン株という感染力の強いウイルスが拡大したことにより、東京や大阪などの大都市だけでなく、地方でも感染者数が急増しています。その一方で、重症になる人は少なく、医療機関に入院する人も比較的少ない数で抑えられています。第5波までの流行では感染者数増加により、医療が逼迫(ひっぱく)し、その対策として人流抑制などの対応が取られてきました。第6波では感染者数の急増により、欠勤者が増加し、それによって社会機能が低下する可能性があります。このため、企業などが事業継続計画を作成し、それを発動することが求められています。そこで今回は、新型コロナ流行時の事業継続計画の作り方について紹介します。

都庁で記者会見する小池百合子東京都知事=2022年1月13日

都庁で記者会見する小池百合子東京都知事=2022年1月13日

 ◇欠勤が社会機能を低下させる

 オミクロン株の感染力はデルタ株の3倍近いとされており、市中感染が起きると感染者数は急増します。日本でも2022年1月1日に457人だった感染者数が、2週間後には2万人以上に増加しました。感染者の大多数は軽症者や無症状者ですが、発症後10日間は隔離になり、濃厚接触者についても自宅待機で10日間の健康監視措置が取られます。この間に、感染者や濃厚接触者は会社を欠勤しなければなりません。また、子どもの保育園や学校が集団感染などで閉鎖されると、保護者が子どもの面倒を見なければならず、これも欠勤につながるのです。

 このようにオミクロン株は感染力が強いだけに、流行が拡大すると欠勤者が増加し、それによって社会機能が低下するという事態が起こります。東京都では欠勤者が従業員の1割以上になると予測しています。

 欧米諸国では欠勤者増加による社会的な影響が既に見られており、ごみ収集や交通機関の運行などにも支障が出ています。また、企業活動が停滞することで経済全体にも大きな損出が生じるのです。

 ◇事業継続計画とは何か

 こうした従業員の欠勤による社会機能の低下を防ぐ対策が事業継続計画で、英語ではBusiness Continuity Plan(BCP)と呼ばれています。すなわち、自然災害、感染症、テロなど不測の事態が発生しても、行政や企業が重要な業務を中断させないための計画です。11年の東日本大震災後には、多くの企業が地震発生時の計画を作ったと思いますが、今回のような感染症流行時の計画を作成している企業はあまり多くありません。21年5月に民間調査会社が調べた結果では、都内の企業で新型コロナ対応のBCPが作成されていたのは2割ほどでした。

 地震用と感染症用のBCPには大きな違いがあり、前者は主に建物の被害を想定して作成されるのに対して、後者は人的被害、すなわち欠勤を想定して作成されます。また、対策を取る期間も地震用は短期間で済みますが、感染症用は長期に及びます。

 ◇特措法の中にある事業継続計画

 新型コロナ流行時の緊急事態宣言を規定している法律に「新型インフルエンザ等対策特別措置法」(特措法)があります。13年に制定されたもので、新型インフルエンザの流行を想定した法律ですが、未知の感染症流行も含むと記載されており、新型コロナ流行対策にも用いられています。この法律の運用を解説した「新型インフルエンザ等ガイドライン」に、流行時の事業継続計画について述べられています。

 それによると、感染対策を提供する行政機関や医療機関、さらにはエネルギー、輸送、通信など社会機能を維持する業種は、事業継続計画を事前に作成しておくことが責務となっています。新型インフルエンザの流行時には、最大4割の欠勤を想定した計画を作成する必要があり、こうした業種では感染症用の事業継続計画が既に作成されていると考えていいでしょう。

 ◇具体的な継続方法

 その一方で、民間企業、特に中小企業では感染症流行に伴う事業継続計画が作成されていないことが多いようです。それでは、具体的にどのように対応するのがいいのでしょうか。

 まずは、自分の会社で継続が必須な業務の選定を行います。業務を重要度からランク付けして、上位の業務に人員を集中することに全力を尽くします。下位の業務は一時休止することも検討してください。

 こうした重要な業務はマニュアル化を推進することが大切です。すなわち特定の従業員だけが関与するのではなく、代替要員でも継続できるように準備しておくのです。また、チームで業務にあたる場合、その中に感染者が1人でも発生すると全員が濃厚接触者となり、業務が停止してしまう可能性もあります。そこで、同じ業務にあたる複数のチームを作っておく方法(スプリットチーム制)が推奨されています。

 さらに、欠勤者の体調が悪くなければ、自宅などからリモートワークで業務に加わることも検討しましょう。この方法は新型コロナの流行に当り、既に多くの企業で実施されてきました。

新型コロナウイルスワクチンの3回目接種の会場=1月5日、福岡市中央区

新型コロナウイルスワクチンの3回目接種の会場=1月5日、福岡市中央区

 ◇サプライチェーンの確保

 もう一つ、事業継続で大事な点はサプライチェーンの確保です。自社内の事業が継続できたとしても、部品や材料などを提供してくれる会社や、出来上がった製品を運搬してくれる会社が事業を停止している場合も想定されます。こうした事態に対処できるように、事前に複数の会社と契約しておくことも検討してください。

 このような事業継続計画の具体策については、東京都中小企業振興公社のホームページなどで紹介されていますのでチェックしておきましょう。

 ◇感染予防対策が第一

 以上、事業継続計画について解説してきましたが、まずは従業員が感染予防に心掛けて欠勤しないことが一番大切です。このためには、従業員にワクチンの追加接種を受けてもらうとともに、マスクの着用や手洗いの励行、そして密を避けるという基本的な予防対策の実施を再確認してください。オミクロン株も、今までの新型コロナウイルスと同じ感染経路で拡大しています。そして、風邪の症状などの体調不良があれば、早めに医療機関で新型コロナの検査を受けて、職場に感染を持ち込まないことです。

 事業継続計画の実施には経営者の強い意志が必要です。大きな目標に「従業員の健康と会社の経営を守ること」を掲げ、今からでも計画の作成に取り掛かってください。それが第6波の中で社会機能を維持するためには必要なのです。(了)

濱田篤郎 特任教授

濱田篤郎 特任教授

 濱田 篤郎 (はまだ あつお) 氏

 東京医科大学病院渡航者医療センター特任教授。1981年東京慈恵会医科大学卒業後、米国Case Western Reserve大学留学。東京慈恵会医科大学で熱帯医学教室講師を経て、2004年に海外勤務健康管理センターの所長代理。10年7月より東京医科大学病院渡航者医療センター教授。21年4月より現職。渡航医学に精通し、海外渡航者の健康や感染症史に関する著書多数。新著は「パンデミックを生き抜く 中世ペストに学ぶ新型コロナ対策」(朝日新聞出版)。


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