日本をはじめ多くの国では、世界保健機関(WHO)がビッグデータに基づき発表する推奨株や国内外の流行動向を踏まえ、次シーズンの季節性インフルエンザワクチン用製造株を決定している。しかしこれまで、ワクチンと流行株のミスマッチや、ウイルスの変異による抗原性ミスマッチがワクチンの有効性(VE)に及ぼす影響は十分に検討されていない。韓国・Korea University Guro HospitalのYu Jung Choi氏らは、2011/12~20/21シーズンにおけるVEを検証する前向きコホート研究を実施。結果をVaccine(2024; 42: 126381)に報告した。(関連記事「インフルワクチン、『接種を強く推奨』」「24/25シーズン突入準備!インフルエンザ動向の早読み」)
10施設の入院患者を対象にワクチン株と流行株の抗原性の一致を検討
韓国では、全ての年齢層に対する普遍的な予防接種としてインフルエンザワクチンを推奨しており、高リスクグループ(65歳以上、妊婦、生後6カ月~13歳児)への無料接種を行っている。しかし、高齢者と小児におけるワクチン接種率は最大80%と高いにもかかわらず、高齢者の疾病負担は顕著でインフルエンザによる10万人当たりの年間超過死亡率は5.97と報告されている。
VEは、年齢、併存疾患、地理的位置など、多くの要因によって異なる。また、当該シーズンにおける流行株やワクチンの種類の影響も受ける。しかし、アジアにおける先行研究は単一シーズン内の有効性の推定に限られており、縦断的な研究は不足している。そこでChoi氏らは、2011/12~20/21の10シーズンにわたるVEを、ワクチン株と流行株との抗原性の一致という観点から包括的に検証する前向きコホート研究を実施した。
対象は当該10シーズンに韓国の10施設に入院した患者のうち、①65歳以上、②インフルエンザ様疾患(ILI)で救急部/外来を受診、③ILIまたは検査でインフルエンザと確認-に該当する患者。典型的なILI症状を呈していないが、原因不明の発熱、肺炎、その他の原因によりインフルエンザ迅速抗原検査(RAT)で陽性と判定された者も組み入れた。
ILIは38℃以上の発熱、7日以内に発症した咳、咽頭痛、鼻漏などの1つ以上の呼吸器症状がある場合とし、インフルエンザ感染はRATで陽性となった場合と定義した。ワクチン接種者は、ILI発症の少なくとも14日前に接種した者と定義。対象をRAT陽性例(症例群)と陰性例(対照群)に分け、年齢、性、併存疾患などの潜在的交絡変数を調整した多変量ロジスティック回帰分析を行い、VEのオッズ比(OR)を算出した。
Korea Influenza and Respiratory Viruses Surveillance System(KINRESS)の全国検査室サーベイランスデータに基づき、3つのインフルエンザ亜型ウイルス(A/H1N1、A/H3N2、B)の一致率を推定。特定の亜型が優勢なシーズンは、1つの亜型が他の亜型に比べて2倍以上流行している場合と定義し、2012/13シーズンと16/17シーズンはA/H3N2優勢期、19/20シーズンはA/H1N1優勢期に分類した。
有意な効果が認められたのは1シーズンのみ
RAT未施行例やワクチン接種歴不明例を除外し、5,322例(平均年齢76.2±6.8歳、男性50.5%)を解析対象とした。症例群は2,499例(47.0%)、ワクチン接種例は4,006例(75.3%)だった。サンプルサイズが小さい2020/21シーズンを除く9シーズンにおけるワクチン株とウイルス亜型の一致率を見ると、A/H1N1の9シーズン、A/H3N2の6シーズンに対し、Bでは14/15の1シーズンのみだった。
多変量解析の結果、10シーズンにおける推定VEは2.9%と有意ではなかった。シーズン別に見ると、有意な効果が示されたのは2016/17シーズンの47.7%(95%CI 22.6~64.7%、P=0.001)のみで、11/12シーズンは-46.9%(同-127.6~5.2%)、12/13年シーズンは10.5%(同-42.4~43.7%)、13/14シーズンは25.6%(同-8.5~49.0%)、14/15年シーズンは9.2%(同-24.5~33.7%)、15/16シーズンは-35.6%(同-86.2~1.2%)、17/18シーズンは6.9%(同-40.9~38.4%)、18/19シーズンは-5.4%(同-116.9~48.8%)、19/20シーズンは3.0%(同-83.9~48.8%)と大きなばらつきが見られた。
サブグループ解析では、ワクチン株とウイルス亜型が一致したシーズンのVEは28.8%(95%CI 8.8~44.8%、P=0.009)と有意な効果が認められたが、不一致のシーズンでは-12.0%(同-30.0~3.7%、P=0.140)で有意差はなかった。
免疫原性の高いワクチンが必要
インフルエンザ関連入院のVEについて10シーズンのプール解析を行ったところ、未接種者に比べ接種者では入院リスクが13.6%低かった(VE 13.6%、95%CI 0.7~24.8、OR 0.864、95%CI 0.752~0.993、P=0.040)。サブグループ解析では、A/H3N2優勢期は有意なリスク低下が示されたのに対し(VE 48.4%、95%CI 29.6~62.2%、P<0.001)、A/H1N1優勢期では認められなかった(同53.8%、-73.4~87.7%、P=0.253)。また、ワクチン株とウイルス亜型が一致したシーズンは有意なリスク低下(同40.3%、22.0~54.4%、P<0.001)が認められたが、不一致のシーズンでは有意差はなかった。
以上を踏まえ、Choi氏らは「ワクチン株とウイルス亜型の不一致が見られたシーズンにおけるVEは極めて低かった。特に、A/H3N2(51.5%)とB(48.5%)が均等に流行した2011/12シーズンと、不一致のBがやや優勢かつ流行期が例年より遅かった15/16シーズンは無効といえるレベルだった」と結論。「高齢者におけるVEが想定よりもかなり低かったことを考慮すると、MF59アジュバント添加ワクチン、高用量不活化3価ワクチン、遺伝子組み換えワクチンなど、免疫原性の高いインフルエンザワクチンが必要と考えられる」と付言している。
(編集部・関根雄人)