治療・予防

「たかが月経痛」と我慢しない―チョコレート嚢胞
予後不良の卵巣がんリスクも(奈良県立医科大学付属病院産婦人科 川口龍二准教授)

 子宮内膜症とは、本来は子宮の内側にしか存在しない子宮内膜の細胞が子宮の壁(子宮筋層内)や卵巣、腹膜などに侵入し、女性ホルモンの影響を受けて増殖・出血(月経血)し、行き場のない月経血がたまる病気の総称だ。卵巣に生じる子宮内膜症をチョコレート嚢胞(のうほう)と呼ぶ。「チョコレート嚢胞そのものは良性の病気ですが、大きくなれば周辺組織と癒着して痛みや不妊の原因となり、嚢胞破裂や卵巣がんのリスクが高まります」と奈良県立医科大学付属病院(奈良県橿原市)産婦人科准教授の川口龍二医師は話す。

100人に1人程度がチョコレート嚢胞から卵巣がんに

100人に1人程度がチョコレート嚢胞から卵巣がんに

 ▽がんリスクは8倍以上

 チョコレート嚢胞は月経と関連しているため、月経がある限り増大する可能性がある。主な症状は月経痛だ。「たかが月経痛」と我慢していると、月経のたびに痛みが増し、やがて鎮痛薬が効かなくなり、痛みで学校や会社を休むなど日常生活に支障を来す月経困難症になる。月経時以外の下腹部痛や腰痛、性交痛、不妊症なども起こってくる。

 また、チョコレート嚢胞から卵巣がんになることもある。そのリスクはチョコレート嚢胞がない人の8倍以上と高く、嚢胞が大きい(6センチ以上)ほど、年齢が高い(50歳以上)ほど高まると報告されている。

 卵巣がんの治療は両側の卵巣と子宮の全摘出術が原則で、多くは術後に抗がん剤が必要となるが、チョコレート嚢胞から発生する卵巣がんには抗がん剤が効きにくく、予後不良の種類もある。「月経困難症を我慢し続け、妊娠を望んだ時には卵巣がんだったという女性もいます」と川口医師。

 月経困難症なら受診を

 そのため、チョコレート嚢胞は早期に診断し、必要に応じて薬で痛みを緩和する対症療法や、排卵を休止し症状と病巣の改善を図るホルモン療法を行う。また、症状の有無にかかわらず、3~6カ月に1回は定期通院し、嚢胞の大きさが6センチ程度になれば、がん化リスクを考慮して手術を検討する。

 川口医師らは、特殊な磁気共鳴画像(MRスペクトロスコピー)で嚢胞内容液中の鉄濃度を測定し、がん化リスクを早期に予測する方法を開発し、手術のタイミングを逃さないよう努めている。根治には病巣側の卵巣全摘出術を行うが、若年者や妊娠を希望する場合には、腹腔鏡下で病巣のみを除去する核出術も選択肢となり得るからだ。

 川口医師は「生活の質を低下させないために、月経困難症と感じたら、速やかに産婦人科を受診してください。おなかの上からの超音波検査やMRI検査で子宮や卵巣の状態をある程度は把握できます。内診は必須ではないので、ためらわないで」と呼び掛けている。(メディカルトリビューン=時事)(記事の内容、医師の所属、肩書などは取材当時のものです)

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