Dr.純子のメディカルサロン

通勤・出社が苦痛になる人も
~「香害」という化学物質過敏症~

 新型コロナウイルスの流行状況に対応して、リモートワークから出社を増やす勤務体制に移行する企業が増えたようです。そんな中で聞くことが増えた悩みは、香りによる体調不良です。

(文 海原純子)


自分にとって心地良い香りが周りの誰かの不調の原因になることもある

 ◇柔軟剤のにおいで車両を変える

 30代のAさん(女性)は、社内の会議で同席する同僚の男性の服から漂ってくる柔軟剤のにおいで頭痛が起こり悩んでいます。化学物質のにおいをかぐと頭痛やめまいがして苦しくなる化学物質過敏症のAさんは、通勤の車内でも柔軟剤のにおいがすると車両を変えたりして通勤しています。汗ばむ季節になり、香り付きの洗剤や柔軟剤を使う人も増え、このところこのにおいがするのが怖くて通勤も苦痛だと言います。リモートの時は忘れていた症状ですが、最近は出社や会議が憂鬱(ゆううつ)で産業医に相談することになったと言います。

 化学物質過敏症は、大量の化学物質にさらされたり、微量の化学物質の影響を長い間受け続けたりした後、ごくわずかな化学物質にも反応して症状を引き起こす状態です。

 化学物質は日常生活の中にあふれています。例えば、殺虫剤や芳香剤、洗剤、アルコール、防虫剤、柔軟剤、香水、シックハウス症候群で知られるようになったホルムアルデヒド、たばこの煙などが代表的と言えます。最近は香りが長く続くマイクロカプセル入りの製品もあり、影響が長く継続することがあります。トイレやタクシーの中に置かれた芳香剤のにおいが苦痛でいたたまれなくなることがあるという声もよく聞きます。

 こうした製品に含まれる化学物質は開発や利便性の方が優先されていて、化学物質過敏症などに関しての調査は十分とは言えない状況です。このため、環境病とも言えるこうした症状に悩む人が増えています。

 鼻の粘膜にある、においを感知する嗅細胞は神経細胞です。ですから、においをかぐとすぐに脳の辺縁系に情報が伝達されます。脳の辺縁系は、自律神経をコントロールする中枢センターですから、化学物質によるにおいが辺縁系に影響を与えることで自律神経に影響を及ぼしてしまうのです。

 症状は目のかゆみや喉の痛みなどの他に、頭痛、吐き気、めまい、動悸(どうき)、イライラ感など多彩で、中にはうつ症状に陥る方もいます。症状が出たとき何科にかかればいいか悩む人もいますが、かかりつけ医のほか、内科や耳鼻科、アレルギー科などでもいいでしょう。うつ症状も引き起こした場合などは心療内科と耳鼻科の両方で治療することもあります。

 ◇隣の家の洗濯物で

 30代の企業に勤める男性は、隣の家の人が外に干す洗濯物から柔軟剤のにおいが風で自宅に入ってくるので窓を開けられないということです。この男性は仕事のストレスと同時に隣家の柔軟剤による化学物質過敏症で、不眠やめまいに加えて耳鳴りが起こり、うつ状態に陥りました。隣の家の洗濯物についてはどうしようもないと、うっぷんを抑えていることでイライラがひどくなったと言えます。

 化学物質過敏症のつらいところは、周りの人に理解されず、「気のせいだろう」「神経質な人だ」「面倒な人」と思われ、症状のつらさを分かってもらえないことと言えます。その結果、精神的に追い詰められうつ状態に陥ることもあります。

 また、芳香剤や柔軟剤をやめてほしいと言えず我慢してしまうことで、症状がさらに悪化することもあるのです。

 症状を改善するには、化学物質を避けることが必要ですから、企業などの場合はぜひ産業医に相談して社内環境の整備をしてほしいと思います。こうした化学物質は、自分は大丈夫でも、人によっては症状を引き起こすことを知っておいていただきたいと思います。においの強い香水や化粧品、ヘアスプレー、柔軟剤、芳香剤などを使う際には周りの人への配慮もお願いしたいと思います。(了)

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