「医」の最前線 「新型コロナ流行」の本質~歴史地理の視点で読み解く~
オミクロン後の出口戦略
~ワクチン追加接種の継続カギ~ (濱田篤郎・東京医科大学病院渡航者医療センター特任教授)【第38回】
日本ではオミクロン株の流行で、連日、多くの感染者が報告されており、2月になり病床の逼迫(ひっぱく)も見られています。その一方で、欧米諸国では感染者数が多いにもかかわらず、感染対策のための各種規制を解除する動きが出ています。これはオミクロン株の重症度が低いことを考慮し、社会活動や経済の再生にかじが切られているためです。こうした世界的な潮流の中で、日本も新型コロナウイルス流行からの出口戦略を検討する時期に入ってきました。今回は、オミクロン株流行後に本格化する出口戦略について考えてみます。
新型コロナウイルス規制の大半が解除されたデンマーク(コペンハーゲン)2022年2月1日EPA時事
◇オミクロン株の収束はいつか
2021年11月にアフリカ南部から拡大したオミクロン株は、1カ月近くで世界的流行に至り、それまで流行していたデルタ株に置き換わるという事態になりました。オミクロン株は感染力の強さに加えて、ワクチンの2回接種だけでは効果がほとんどなく、それまでに世界各国が取ってきた新型コロナ流行の制圧計画が崩れてしまったのです。
その一方で、オミクロン株は重症化する人が従来株よりも少なく、自宅療養を中心とした医療対応が取られるようになりました。ただし、感染者数は従来株よりも桁違いに多く、その結果、医療状況の逼迫を生じました。
2月に入ると、欧米諸国ではオミクロン株の感染者数が次第に減少しており、沈静化の兆しが見えています。日本でも2月中旬をピークに流行が収束すると予想されていますが、3月末頃まで流行が長期化する可能性もあります。これは現在の季節が冬で、飛沫(ひまつ)感染が起こりやすい時期であることや、日本でワクチンの追加接種率が低いことが原因です。さらに、「BA.2」と呼ばれる感染力のより強いオミクロン株が日本でも拡大する可能性があり、それが流行の長期化を起こすかもしれません。
◇オミクロン後の世界
それでは、オミクロン株の流行が収束後はどのような状況が考えられるのでしょうか。
今までの新型コロナ流行の経験から、日本国内でオミクロン株は完全には消滅せず、小規模な流行を繰り返していくでしょう。また、海外には流行の衰えない国もあり、そこからの入国者が国内に持ち込む可能性もあります。ただし、これからの日本は春から夏という飛沫感染の起こりにくい季節になるため、大流行は避けられると思います。そして今年の秋から冬にかけて、オミクロン株による流行が再燃するものと予想されます。
これとは別に、世界のどこかでオミクロン株とは全く異なる変異株が誕生する可能性もあります。今までの新型コロナの流行を見ても、19年末に中国で発生した武漢株以来、アルファ株、デルタ株、オミクロン株という新しい変異株が次々と発生し、世界流行を起こしてきました。オミクロン株の収束後も、再びそのような事態が起こることが十分に考えられます。
しかし、あまり悲観的になることはありません。今まで世界流行した変異株は、いずれも感染力が従来株より強くなっていますが、重症度は次第に低くなる傾向を示しています。そうであれば、オミクロン後に全く新しい変異株が拡大しても、その重症度はオミクロン株と同等か、それ以下になる可能性が高いのです。
◇欧米諸国で始まった出口戦略
このようにオミクロン株の流行が春までに収束すれば、それ以降はオミクロン株の再燃か、新しい変異株が発生しても重症度は低いという予測がつきます。こうした前提に立って、欧米諸国では2月に入り、新型コロナ流行からの出口戦略が取られているのです。まだ感染者数が多いにもかかわらず、マスク着用や患者隔離など感染対策への各種規制が解除されています。
ただし、一つだけ強化している対策がワクチン接種です。国民への追加接種を加速させるとともに、ワクチン接種証明書なしでは日常生活ができない状況になりつつあります。つまり、欧米諸国の出口戦略の根本にあるのは、ワクチン接種で国民の新型コロナへの免疫レベルを一定に保ちながら、社会や経済を再生していくというものなのです。
日本もこの戦略を取ることで出口に向かうことができますが、それには三つの条件をクリアしなければなりません。一つ目は、当面の追加接種率を6割以上にすること。二つ目は、重症者が増えてきた場合の病床確保がすぐにできる状況にすること。三つ目は、感染症法上の扱いを、現在の二類相当からインフルエンザ並みの五類に変更すること。
私は三つ目の条件整備が一番難しいと思います。現在は二類相当であるため、保健所を中心に感染者の隔離や濃厚接触者の追跡などが行われてきました。これは感染力が強く、重症度の高い感染症の場合には必要ですが、オミクロン後はその必要性もなくなってくるでしょう。その結果として、正確な感染者数の把握や医療費の公費負担ができなくなりますが、出口戦略として五類への変更は避けられないと思います。
追加接種を受ける政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長=2022年2月5日
◇この先のワクチン接種
出口戦略の根本であるワクチン接種による免疫維持のためには、この先、何回も追加接種を続けていくのでしょうか。私はその必要があると考えます。
オミクロン株がそのまま流行していても、ワクチンの効果は減弱するので、秋以降に追加接種が必要になってくるでしょう。また、オミクロン株が変化していれば、それに応じたワクチンを用いることになります。これはインフルエンザワクチンの接種を毎年受けるのと同じ考え方になります。
もし、全く新しい変異株が拡大した場合は、それに応じたワクチンの開発も検討しなければなりません。今年1月に世界保健機関(WHO)は、新しい変異株が発生した時に備えて、新型コロナウイルスに広く効果のあるワクチン開発を進めるよう提言しました。これには、複数の変異株に効果のあるワクチンを混合して使用することも考えられます。また、長期間効果の持続するワクチンの開発も必要になるでしょう。
現在、日本では主にmRNAワクチンが使われていますが、今後は不活化ワクチンや組み換えタンパクワクチンなど新しい種類のワクチンも使用されるはずです。こうした新しい種類のワクチンによって、副反応が軽くなることも期待できます。
新型コロナウイルスの流行が始まって3年目。そろそろ本格的な出口戦略が見えてきました。(了)
濱田篤郎 特任教授
濱田 篤郎 (はまだ あつお) 氏
東京医科大学病院渡航者医療センター特任教授。1981年東京慈恵会医科大学卒業後、米国Case Western Reserve大学留学。東京慈恵会医科大学で熱帯医学教室講師を経て、2004年に海外勤務健康管理センターの所長代理。10年7月より東京医科大学病院渡航者医療センター教授。21年4月より現職。渡航医学に精通し、海外渡航者の健康や感染症史に関する著書多数。新著は「パンデミックを生き抜く 中世ペストに学ぶ新型コロナ対策」(朝日新聞出版)。
(2022/02/17 05:00)
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