「医」の最前線 「新型コロナ流行」の本質~歴史地理の視点で読み解く~

「BA.5」は大流行するか
~海外の状況から読み解く~ (濱田篤郎・東京医科大学病院渡航者医療センター特任教授)【第47回】

 2022年7月に入り、国内の新型コロナウイルス感染者数が再び増加しています。この原因と考えられているのがBA.5というオミクロン株の新しい種類の拡大です。既に第7波に入っているとされていますが、このウイルスの特徴や既に拡大している海外の状況からすると、その脅威はどれくらいあるのでしょうか。今回はBA.5の流行予測について解説します。

渋谷のスクランブル交差点を行き交う人たち=7月2日

 ◇感染者が再増加した原因

 日本で第6波の流行は22年2月をピークに減少していましたが、この傾向は6月中旬に止まり、6月末から再び増加が見られるようになります。この第7波と呼ばれる流行は大都市圏だけではなく、島根県など今まで感染者が少なかった地域にも波及しました。

 第7波の原因としては、感染対策の緩和が進んだことや、気温の上昇で屋内の換気が不十分になったことなどが考えられていますが、BA.5というオミクロン株の新しい種類の拡大も大きな原因になっています。実は、6月末から起きている感染者の再増加は日本だけでなく、世界全体でも見られている現象なのです。

 世界的な新型コロナウイルスの流行は、21年12月ごろからオミクロン株が主流となり、その感染力の強さから世界各国で多くの感染者が発生しました。その一方、重症度は従来のデルタ株などに比べて低く、22年春から各国は感染対策の緩和を進めてきました。

 この間にオミクロン株のウイルスにも変化が見られており、流行が始まった当初はBA.1という種類でしたが、4月ごろにはBA.2が主流となりました。そして現在はBA.5に置き換わりつつあるのです。

 ◇BA.5の特徴

 では、BA.5は世界的にどれだけ拡大しているのでしょうか。

 世界保健機関(WHO)の22年7月6日の報告では、日本を含む世界83カ国でBA.5が確認されており、検出されたオミクロン株の52%を占めています。1週間前が37%でしたから、かなり急速に置き換わっているのが分かります。米国ではこの割合が54%、東京でも6月末で33%になっています。

 このBA.5の特徴としては、成長速度が従来のBA.1やBA.2に比べて速いとともに、ワクチンなどによる免疫から逃避しやすいことが分かっています。つまり、ワクチン接種を受けていても、今までのオミクロン株より感染しやすいわけです。こうした特徴があるため、世界各地でBA.5への置き換わりが進み、感染者数が増えていると考えられます。一方、BA.5の重症度については、今までのオミクロン株とほとんど変化がないとされています。

 ◇感染者はどこまで増えるか

 このように日本で感染者が増加している原因としては、BA.5という以前よりも感染力の強いオミクロン株が世界的に拡大していることが大きいと考えられますが、どこまで感染者は増えるのでしょうか。

 私としては、当面のところ、オミクロン株の流行が始まった22年1月のような大流行という事態にはならないと考えます。その理由として、第一に現在の日本のワクチン接種率が挙げられます。BA.5にはワクチンの効果が弱いとされていますが、3回目の接種を受けていれば、ある程度の感染予防効果は保たれます。この3回目接種率が現在の日本では6割以上に達しています。ワクチンの効果が時間と共に減衰することも考えなければなりませんが、重症化を予防する効果は長いこと持続するとされます。

 第二の理由として、既にBA.5が主流になっている海外の状況です。例えば、ポルトガルでは5月にBA.5への置き換わりが進み、現在では100%近くを占めています。同国では5月下旬に感染者が増加しましたが、その後、短期間で減少に向かっています。フィンランドもほぼ100%がBA.5と報告されていますが、現在まで感染者はあまり増加していません。フランスやイタリアなど置き換わりが進行中の国では、増加が顕著になっていますが、BA.5の感染力は一概に強いわけではないようです。

 このような状況から、今後、日本でもBA.5への置き換わりが進み、感染者が増えることは避けられませんが、すぐに医療逼迫(ひっぱく)を起こすほどの大流行にはならないと考えます。ただし、BA.5による流行の波が秋以降の寒い時期まで続けば、そのときは大流行になることが想定されます。なぜなら、新型コロナのような呼吸器系ウイルスが最も流行しやすい季節は、寒い時期だからです。

大型連休中に観光客でにぎわう沖縄・国際通り=4月29日

 ◇不気味な南半球

 この点で注目したいのが南半球の状況です。南半球は現在、冬の季節で新型コロナウイルスが拡大しやすい環境になっています。ここに感染力の強いBA.5が侵入すれば、大きな流行になることは容易に予想されます。しかし、現時点でオーストラリア、ニュージーランド、南アフリカなど南半球の国々では、BA.5が拡大しているものの、感染者数はあまり増えていないのです。

 現在、これらの国々では2年ぶりのインフルエンザが流行しています。オーストラリアではコロナ流行前を上回る感染者数が報告されています。この時期にBA.5が同時流行してもおかしくないのですが、なぜか新型コロナの感染者は大きく増加していません。

 この理由として考えられるのは、呼吸器系ウイルス同志の干渉作用です。インフルエンザの流行が新型コロナの流行を抑えているのかもしれません。いずれにしても、南半球はこれから本格的な冬になるため、もう少し経過を見る必要があるでしょう。

 ◇今年の夏の過ごし方

 日本では今年の夏のシーズンをどのように過ごしたらいいでしょうか。多くの国民の皆さんは過去2年間、夏休みの旅行や里帰りを控え、今年こそはと思っていることでしょう。

 もし、第7波の流行が小さな波で終わるのであれば、旅行などで移動することは構わないと思います。ただし、現在のように感染者数が増加している時期は、場面に応じた感染対策を確実に実施することが必要です。また、新型コロナの感染を疑う症状があれば、予定をキャンセルすることも忘れないでください。

 そして、旅行などを予定している人はもちろんのこと、そうでない人も、3回目のコロナワクチン接種を早めに受けるようにしてください。高齢者や慢性疾患のある人は、4回目接種の時期が来たら、それを受けるようにしましょう。BA.5はワクチンが「効かない」のではなく、「効きにくい」ということで、必要な接種回数を着実に受けておくことが大切です。

 BA.5の流行といってもオミクロン株の流行であり、感染対策は今までと同様です。また、重症度も変化していないので、あまり恐れ過ぎずに、感染者数が増加している時期は強めの感染対策を取る。そんな状況に応じた行動が今年の夏は求められています。

 なお、今回のコラムは7月上旬までの情報を基に作成してあります。BA.5の流行状況は刻々と変化しますので、最新の情報も参考にしてください。(了)

濱田 篤郎 特任教授

 濱田 篤郎 (はまだ あつお) 氏

 東京医科大学病院渡航者医療センター特任教授。1981年東京慈恵会医科大学卒業後、米国Case Western Reserve大学留学。東京慈恵会医科大学で熱帯医学教室講師を経て、2004年に海外勤務健康管理センターの所長代理。10年7月より東京医科大学病院渡航者医療センター教授。21年4月より現職。渡航医学に精通し、海外渡航者の健康や感染症史に関する著書多数。新著は「パンデミックを生き抜く 中世ペストに学ぶ新型コロナ対策」(朝日新聞出版)。

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