「医」の最前線 「新型コロナ流行」の本質~歴史地理の視点で読み解く~

新型コロナ以外の感染症が動きだした (濱田篤郎・東京医科大学病院渡航者医療センター特任教授)【第62回】

新型コロナ対策緩和で人の移動が活発になり、訪日外国人も急増している

新型コロナ対策緩和で人の移動が活発になり、訪日外国人も急増している

 インフルエンザ流行の復活

 新型コロナの流行に伴って、インフルエンザの流行が世界的に消滅していましたが、日本を含めて復活しています。米国では21~22年の冬のシーズンから流行が復活し、22~23年のシーズンはコロナ前を上回る患者数になりました。日本では23年1月から患者数が増加したものの、コロナ前よりも少ない数で収束しました。ところが23年5月ごろから、日本各地の学校などでインフルエンザの流行が起きています。

 こうした通常の季節外のインフルエンザ流行は、22年5月に米国でも発生しており、流行が復活した直後には起こりやすい現象なのかもしれません。また、この時期になると前年秋に接種したインフルエンザワクチンの効果が減衰してしまうので、流行が拡大しやすくなるようです。

 では、なぜインフルエンザの流行が一時消滅したのでしょうか。これについてはさまざまな見解がありますが、一番大きな要因は、コロナ対策で国際交通を止めたことではないかと思います。季節性インフルエンザは北半球と南半球の間で、患者が移動することにより毎年の流行が起きており、これを止めてしまえば流行が消滅するわけです。新型コロナインフルエンザの予防対策が同じということも関係しているでしょうが、あまり大きな要因ではないようです。

 国際交通が再開にしたことにより、次の冬もインフルエンザの流行は起きると考えていいでしょう。新型コロナとのダブル流行になる可能性も高いので、流行前までにインフルエンザワクチンの接種を済ませておくことをお勧めします。


 新型コロナの流行は、それ以外の感染症の流行にも大きな影響を及ぼしており、こうした状況が落ち着くまでには、この先数年はかかると思います。それまでの間は、新型コロナだけでなく感染症全体の変化を視野に入れながら、総合的な対策を立てていくことが必要なのです。(了)

濱田特任教授

濱田特任教授


 濱田 篤郎(はまだ・あつお)氏
 東京医科大学病院渡航者医療センター特任教授。1981年東京慈恵会医科大学卒業後、米国Case Western Reserve大学留学。東京慈恵会医科大学で熱帯医学教室講師を経て、2004年に海外勤務健康管理センターの所長代理。10年7月より東京医科大学病院渡航者医療センター教授。21年4月より現職。渡航医学に精通し、海外渡航者の健康や感染症史に関する著書多数。新著は「パンデミックを生き抜く 中世ペストに学ぶ新型コロナ対策」(朝日新聞出版)。

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