「医」の最前線 感染症・流行通信~歴史地理で読み解く最近の感染症事情~

今後の新型コロナワクチン・次世代型の必要性 東京医科大客員教授・濱田篤郎【第6回】

 ◇新型コロナワクチンはなぜ痛い

 現在、日本では、新型コロナ用としてmRNAワクチンと組み換えタンパクワクチンの二つの種類が使用されています。今までの接種者数では前者の占める割合が大多数で、接種部位の痛みや腫れ、発熱や倦怠感などの全身反応が高率に発生することが知られています。mRNAワクチンの添付文書に記載された副反応の発生頻度を見ても、接種部位の痛みは5割以上、発熱は1~5割に起こるとされています。

新型コロナウイルスワクチンの接種風景

新型コロナウイルスワクチンの接種風景

 では、なぜmRNAワクチンで痛みや発熱が頻繁に起こるのでしょうか。その原因は、この製剤の成分にあるとされています。mRNAは接種後に体内で短時間のうちに分解してしまうため、その周囲を脂肪の膜で包んでいます。この脂肪成分が痛みや発熱を起こす原因の一つと考えられています。ただし、組み換えタンパクワクチンでも、発熱は少ないものの、痛みや腫脹(しゅちょう)は高率に起こるため、こうした副反応は新型コロナワクチン全体に共通する原因があるようです。

 ◇痛くても受けた流行初期

 mRNAワクチンは、新型コロナの流行が発生してから1年もかからずに開発されました。これだけのスピードで開発が進んだのは、このワクチンだから成し得たことであり、変異株の発生に際しても迅速に対応することができました。

 一方で、痛みや発熱といった副反応が高頻度に起こることは、接種が始まった当初から知られていましたが、それを我慢して、多くの人々が接種を受けました。そうしなければ、この感染症にかかる恐れがあっただけでなく、社会活動を再開できなかったからです。そして、このワクチンの効果で新型コロナの流行は収束に向かっていきました。

 このようにmRNAワクチンは、新型コロナの流行初期において、その制圧に大きな効果を発揮し、それが故に、このワクチンの開発者である米国のカリコ博士らが、2023年のノーベル医学・生理学賞を受賞したのです。

 ◇季節性流行期の次世代型

 時を経て、現在は多くの人々が免疫を獲得し、新型コロナの流行が季節性に起きる段階になっています。こうした季節性流行期でも、高齢者はワクチンを定期的に受けることが推奨されますが、それ以外の人が受けるメリットは、個人レベルでは少ないように思います。

 ただ、今後、新型コロナが季節性流行を繰り返すのであれば、社会全体が追加接種などで免疫状態を一定に保っておくことが、大きな流行再燃を防ぐためには必要だと思います。それに用いる製剤としては、現在主流になっているmRNAワクチンでは難しく、副反応がより少なく、低コストであることが求められます。

 こうした要望に応ずるため、mRNAワクチンについては副反応を減らす研究が進んでいますが、組み換えタンパクワクチンや不活化ワクチンといった、他の種類の使用を促進することも考えなければなりません。新型コロナの不活化ワクチンは、日本ではまだ承認されていませんが、インフルエンザなど多くの感染症で用いられている種類であり、副反応を減らせる可能性があります。

 新型コロナの流行長期化に伴い、使用するワクチンも次世代型に移行していくことが求められているのです。(了)

濱田客員教授

濱田客員教授


濱田 篤郎(はまだ・あつお)

 東京医科大学病院渡航者医療センター客員教授
 1981年東京慈恵会医科大学卒業後、米国Case Western Reserve大学留学。東京慈恵会医科大で熱帯医学教室講師を経て2004年海外勤務健康管理センター所長代理。10年東京医科大学病院渡航者医療センター教授。24年4月より現職。渡航医学に精通し、海外渡航者の健康や感染症史に関する著書多数。新著は「パンデミックを生き抜く 中世ペストに学ぶ新型コロナ対策」(朝日新聞出版)。

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