「医」の最前線 「新型コロナ流行」の本質~歴史地理の視点で読み解く~
11月以降、対策緩和で感染高止まりか
~世界の流行状況から日本の第6波を予測する~ (濱田篤郎・東京医科大学病院渡航者医療センター特任教授)【第30回】
日本では10月に入り、新型コロナウイルスの感染者数が大きく減少しており、第5波が収束したと見られています。この要因についてはワクチン接種の拡大とともに、国民が予防対策を適切に行ってきたことが大きいようです。社会生活も少しずつ流行前に戻りつつありますが、次なる第6波を心配する声も上がっています。そこで、今回は世界の流行状況を参考にしながら今後の日本の流行を予測してみます。
昨冬の銀座=2021年01月02日
◇世界全体で感染者数が減少傾向
世界保健機関(WHO)は毎週、世界の新型コロナ流行状況を発表しています。最新の10月13日版によると、デルタ株による世界的な感染者数は8月中旬をピークに減少しています。地域別に見ても、ほとんどの地域で減少しており、死亡者数も同様です。ただし、ロシアや東欧だけは感染者数も死亡者数も増加傾向にあります。これは、ワクチン接種が停滞していることや、国民が長期の流行に疲弊し、予防対策が十分に行われていないことが原因と考えられています。また、これらの地域で使用されているロシア製ワクチンの効果が減弱している可能性もあります。
◇減少国の三つのパターン
感染者数が減少傾向にある国は、各国政府の取っている対策で、三つのパターンに分類することができます。第1は日本を含むアジアの国々で、ワクチン接種が進むとともに、日常の予防対策も継続しているパターンです。こうした国々では感染者数が持続的に減少しています。第2は西欧の国々などで、ワクチン接種が進んだことにより、予防対策を緩和した国です。このパターンでは、感染者数が一時よりも減少していますが、高止まりの状態にあります。ただし、重症者や死亡者数は少なく抑えられていることが重要な点です。米国は死亡者数がまだ多いですが、第2のパターンに近いと言えるでしょう。第3はアフリカ諸国で、ワクチン接種があまり進んでいないのに感染者が減少傾向にあります。これは感染者数の把握が十分に行われていないことなどに起因するものと考えます。
日本など第1のパターンに属する国々は、今後、予防対策の緩和による社会生活の回復に向けた動きが始まります。すなわち、第2のパターンに近づき、高止まりの状態になることが予想されます。
◇北半球が冬を迎えることの影響
新型コロナの流行状況は気候によっても影響されます。例えば、北半球はこれから冬の季節を迎えますが、新型コロナウイルスは寒い時期に流行が拡大しやすいことを、私たちは前回の冬に経験しました。すなわち日本では、今年1月をピークに流行した第3波がそれに当ります。寒い時期に流行しやすい原因としては、屋内で過ごす時間が長くなることや換気を頻繁にしなくなること、ウイルスが外界で生存しやすくなることなどが考えられています。
こうした理由で、北半球では冬の季節が到来する11月以降から、次の新型コロナの流行が起きると予想されています。この流行がどれだけの大きさになるかは、ワクチン接種の進展状況によるでしょう。接種率が70%以上に達している国では感染者数がある程度増えても、重症者や死亡者の数は少なくなるものと考えます。
◇新しい変異株の出現は
ウイルス側の要因も流行状況に大きく影響します。現在、世界的に流行している新型コロナウイルスはデルタ型の変異株で、昨年流行していたウイルスに比べて感染力が2倍強いことが明らかになっています。このデルタ株が今年の4月にインドで大流行を起こしてから全世界に拡大し、現在の状況に至っています。9月以降、世界的に感染者数が減少しているのは、「デルタ株に変化が起きているから」という説もありますが、その真偽は明らかではありません。
それよりも、今後、新しい種類の変異株が拡大すると、再び大きな流行になることが予想されます。現在、WHOは警戒を要する変異株に、南米で発生しているラムダ型とミュー型を指定しています。この二つの変異株は現在のワクチンの効果を低下させたり、再感染を起こしたりする可能性もあります。しかし、今の段階で感染力はあまり強くないため、流行は南米のペルーやコロンビアに限局しています。この二つの変異株については、今後も流行状況の厳重な監視が必要ですが、今のところ、デルタ株に代わる新しい脅威にはならないようです。
米製薬大手メルクが開発中の新型コロナウイルス経口治療薬「モルヌピラビル」(同社提供)=AFP時事
◇日本で第6波が起きる可能性は大
このように、今後の新型コロナの流行には、各国政府の対策、気候、変異株の出現などが影響してくるわけですが、総合的に見て、日本での第6波の流行は避けられないものと考えます。この理由として、冬の到来や予防対策緩和の動きが挙げられます。このうちでも、後者は政府の方針で中止することができますが、私はこの時期に予防対策を緩和しておくことが必要と考えています。
現在の西欧諸国で見られるように、ワクチン接種率が7割前後であれば、予防対策を緩和することにより感染者数はある程度増えますが、重症者や死亡者の数は抑えられるでしょう。こうした第6波の被害想定の下で、予防対策の緩和は社会生活を回復させるために必要と考えます。最近のワクチン追加接種や経口治療薬開発といった動きも、その追い風になるはずです。
ただし、第6波の流行が想定を超えて緊急事態宣言レベルに近づいてきた場合は、予防対策の緩和をやめ、各種制限を元に戻すことも計画しておく必要があります。特に医療体制の逼迫(ひっぱく)が生じるような事態は避けなければなりません。臨機応変な対応が行政にも国民にも求められているのです。
新型コロナの流行終息までには、まだまだ時間を要します。流行と共存していくための手始めのトライアルとして、次の第6波を乗り越えることが大切だと思います。(了)
濱田篤郎 特任教授
濱田 篤郎 (はまだ あつお) 氏
東京医科大学病院渡航者医療センター特任教授。1981年東京慈恵会医科大学卒業後、米国Case Western Reserve大学留学。東京慈恵会医科大学で熱帯医学教室講師を経て、2004年に海外勤務健康管理センターの所長代理。10年7月より東京医科大学病院渡航者医療センター教授。21年4月より現職。渡航医学に精通し、海外渡航者の健康や感染症史に関する著書多数。新著は「パンデミックを生き抜く 中世ペストに学ぶ新型コロナ対策」(朝日新聞出版)。
(2021/10/21 07:44)
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